ゴーン逮捕は誰のため?

日産のゴーン会長が一昨日、いきなり、東京地検特捜部に逮捕された。昔、ビジネススクールで勉強していた頃、よく、事例研究に使った人なので個人的には大変残念かつショックである。しかし、地検の逮捕の理由は、有価証券報告書に自身の報酬を低く記載したためだという。言ってみれば「形式犯」である。有価証券報告書のよくある不実記載事件は、売上を実際より多く記載する粉飾決算など、要するに、投資家に対して、投資に値するかどうかのリスク評価のための情報を正確に記載していない、というものがほとんどだ。

ゴーン氏が給料を正しく掲載していなかったのが事実であれば、確かにそれは金融商品取引法違反にはなるだろうが、ゴーン氏が実際より安く自分の給料を記載することは、投資家のリスク評価にどのくらい悪影響を与えたのだろうか? 実際より自分の給料を高く記載した、ということであればナントナク理解できる。それは、ある意味、会社が儲かっていないのに儲かっているように見せかけることに匹敵する。しかし、安く見せかけた、というのである。株主にしてみれば、「ゴーンにそんなに払う金があったら、俺達にもっと配当よこせ。」と言う機会を奪われた、ということにでもなるのか。日本社会ではあまりの高給取りは妬まれるので、「給料高すぎだ!」と非難されるのを単純に恐れただけなんじゃないかという気がする。欧米だったら、年俸20億円くらいの経営者は普通に存在する。プロ野球プレーヤーだって、年俸20億円くらいの選手はいる。これは、文化の違いだろうと思う。

実際に受け取った金額の半分しか記載していなかった、と言うが、では、その実際の金額というのはどこに書いてあるのだろうか。所得税の確定申告書か。そもそも、ゴーン氏は、フランスと日本の間を行ったり来たりしているようだが、日本に住民票あるのだろうか。日本に住民票がないのならば日本の税務署に税金を払う義務はないだろう。日産子会社から住宅を無償で提供してもらっていた、などとも報道されているので、地検はそれらを報酬とみなし、それを書いてなかったから悪い、という論理だろうか。なお、住宅を無償で提供してもらうこと自体は、極めて民事的な話であるので、人がどう感じるかは別として、それは犯罪ではない。

脱税するために自分の給料を安く申告した、というのなら、それは確かに重大な犯罪である。しかし、これはどうもそうゆう話ではない。ゴーン氏は、日本にほとんどいないので、多分、納税義務すらない。

本件は、単に日産の社内クーデターに、日本の検察が味方しているだけ、という見方はできないだろうか。ゴーン氏は、確かにカリスマ的なので、日産社内にはそれを面白くないと思う人は多いだろう。そして、巨額の給料をもらっている人を叩けば世論も喜ぶ。でも、それに対して、東京地検特捜部が、ちょっとした形式犯を根拠に逮捕して、巨悪のように扱ってしまうのは如何なものだろうか。特捜部というのは、大物を叩かないとその存在意義が疑われるので、ゴーン氏がターゲットにされたのだろうが、何か強引にやってないだろうか。厚生労働省の村木局長冤罪事件もそうだったし、元外務省ロシア課の佐藤優氏事件、そして、ホリエモン事件もそうだと思っているが、特捜部の優秀な検事なら、無罪の人間でも有罪にすることができる。新たな冤罪事件ではないことを祈っている。

フランスやイギリスのメディアは、ゴーン氏がルノーと日産の経営統合を計画していたので、それに反発した日本人取締役の謀略だ、と報じている。日産は明日の取締役会で、ゴーン氏を解任するという。牢屋に入っている時間に大急ぎで首にしようとしているともとれる。日産には推定無罪という原則がないのだろう。日産のごく一部の人による内部調査がどこまで信用できるのか。第三者委員会報告でもあればまた話は別だがそれもない。中立的な調査が全くない。

この事件、ニュースを聞けば聞くほど、何かがおかしい。ニュースの額面通りにゴーン氏の巨悪を善意の日産が検察に内部告発しただけとは思えない。日産によるゴーン氏及びルノーに対するクーデタと考える方がよほど筋が通る。

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