熊本県の受援体制

「熊本地震から半年」ということで昨日のNHKニュースに熊本県知事が出演し、4月の地震の際、全国から支援物資や支援要員などが熊本に送られてきたにもかかわらず、それをうまく県側がさばいて各避難所などに配分できなかったことに関し、知事は「大きな原因は県の文化だ。県にはよその県の支援を受けることをよしとしない文化がある。また、他から支援に来ていただいても県の事がよくわかっている人でないとうまくいなかない。実際、熊本県に過去に出向などで来た経験があって熊本のことをよく知っている人の支援は大いに助かった。」というような趣旨の発言をした。

支援物資が熊本側の集積地点に山積みになり、各避難所に配分されなかったので、霞が関の政府が「プッシュ型支援」などと称して、避難所に直接物資を送っていたが、これらは、結局のところ、緊急時の資源配分に関するマネジメントシステムが確立されていないことを意味する。緊急時には、時間が限られるため『市場に任せて「神の見えざる手」で配分する』という通常時の資源配分メカニズムは有効に機能しない。どうしても、「何者かの見える手」による人為的な配分を短時間に、かつ、合理的に実施しなければならない。

緊急時の資源配分に必要となる仕事の内容(これを「緊急時の機能」という。)をあらかじめ定義し、各機能に対する人的資源の配分ルールを決め、利用可能なその他の資源のチェックインリストを見ながら、必要なところへ配分するための意思決定をするための手順(procedure)(これを「標準作業手順書」(Standard Operating Procedure(SOP))という。)がきちんと決まっていなかったことが要因だろう。

できれば、このような「緊急時の機能」のうち、どこで、どんなインシデントが発生しても同じように必要になる非常に基本的な機能については、米国のICSやNIMSのように機能の内容を標準化して、定義(要するに仕事の内容)を全国的に統一しておいた方がよいこと言うまでもない。そして、機能毎のSOPを作っておく。

なお、いきなり、全国的な標準機能や標準SOPを作るということも難しいので、熊本県あたりが今回の反省として、このようなファンクショナル・アプローチによるマニュアル作りを先導すればよい。知事のようにうまくいかなかったことを組織の文化のせいにするのは無責任な言い訳だ。県のことをよく知っている人が来てくれると助かるのは当たり前だろうが、それは、逆に言うと、県側でまともな作業割り当てやコーディネーションをする能力がなかったことを意味するだろう。言わなくても仕事をしてくれる人などそうそういない。緊急時には、誰かが情報に基づいて、作業割り当てに関する意思決定をしなければならないが、それができなかったということであり、その原因は緊急時の「マネジメントシステム」が欠如していたということである。

豊洲問題:役人の短期人事異動が責任の所在をあいまいにする要因

毎日新聞:「盛り土問題」

豊洲問題では、いつ、どこで、だれが、どんな意思決定をしたのかわからないようだが、このような状況になる主要な原因は、役人の超短期人事異動である。国の役人は1~2年でゴロゴロ変わるし、地方公務員も3年前後でゴロゴロ変わる。技官も事務官も、皆、同様に玉突きをしながら、ゴロゴロ変わる。

欧米では、「専門職」「文民(Civilian)」などと呼ばれる公務員は、10年も、20年も同じポジションに留まり、定期人事異動というものがそもそも存在しない。「制服組」と呼ばれる人々には異動がつきものだが、それでも4~5年は同じ仕事をする。

しかし、日本の組織は、ほんとに異動好きである。政治家も、役所も、大企業も本質的にはみな同じである。今の安倍総理や小泉元総理は例外的に長期政権だが、総理大臣だって1~2年でゴロゴロ変わり、外国から相手にもされなていなかった状況は記憶に新しい。

この短期人事異動には、表の目的と裏の目的がある。表向きの目的は「いろいろ経験させる」「業者との癒着を防ぐ」などである。裏向きの目的は、「責任の所在をあいまいにする」ということである。今回の東京都の盛り土問題ではそれが端的に表れている。「いつ、どこで、だれが、何を決定したのかよくわからない」というが、これは、人が次から次へと短期に替わるために結局のところ、「自分が来た時にはそうなっていた」とか「記録がないので理由がわからない」とか「そのときの担当者が誰だかわからない」と言って逃げ切れるようにするための仕組みだと言い換えることができる。

恐らく、やってる本人は「建物の下に空洞を作るのは当然だろう」と思い込んでかってに進めてしまったのだろうが幹部も周辺の人も前後の状況がわかっていないので「はい、そうですか」とそれ以上考えない。

短期異動はコスト面でも問題である。同じ仕事を10年もやっていれば人に聞かないでも自分で判断がつくようになる。意思決定も早いし、一人で多くのことができれば人件費もかからない。しかし、よくわからない人々の集団では意思決定に時間もかかるし、自分でできなければ他人にやらせようとするので必要な人の数も増えてくる。

日本の公務員は、一部の人を除き、一般的にプロフェッショナリズムに欠ける。プロとは自分の仕事に責任を負う人を意味する。責任を回避することばかり考えている人はプロではない。プロではない人々が大災害などのときに適切な判断ができるわけがない。短期的に異動が発生する組織でプロなどが育つはずがない。小池知事には、役人の短期異動を改善する努力もしてもらいたいものである。

 

中小企業BCP策定運用指針

緊急事態発生時には、全体のリーダーである経営者によるトップダウンの指揮命令によって従業員を先導することが重要です。経営者は、指揮命令と情報の管理に注力することになります。また、BCP発動後から事業復旧を完遂するまでの間には、例として以下の機能をもった組織体制が望まれます†6

・ 復旧対応機能 …施設や設備の復旧等、社内における復旧対応
・ 外部対応機能 …取引先や協力会社、組合や商工会との連絡や各種調整
・ 財務管理機能 …事業復旧のための資金調達や各種決済
・ 後方支援機能 …従業員の参集管理や食料手配、負傷した従業員の対応等

これらの機能ごとにチームを構成し、チームリーダーへの指揮命令をリーダー(社長等)が行い、チーム内の指揮命令はチームリーダーが行うという体制が望まれます。また、このようなトップダウンの体制を有効に機能させるためには、リーダーとなる人物と普段より意思疎通を多くとっている、いわゆる「社長の右腕」のような従業員がサブリーダーになることがポイントです。このような従業員を、事前に想定しておくことが望ましいでしょう。
なお、各チームの人数をそれぞれ同程度の人数にする必要はまったくありません。そのチームの役割に必要な人数をそれぞれ割り振ればよいのです。
また、以下のような場合においての体制づくりの考え方も示しておきます。

図 BCP発動時におけるチーム体制の例
図 BCP発動時におけるチーム体制の例

(出典:中小企業庁 BCP策定運用指針)

上記は、中小企業庁のHPを見ていて見つけたもの。恐らく、このピラミッドはアメリカのICSのまねごとをして作ったのだろう。それは別にいいのだが、問題は経営者に権限を集中してこのピラミッドを作れ、と簡単に言ってしまっていることである。ビルのワンフロアで20人位が働いている企業だったらそれでもいい。

しかし、中小企業だって、全国に支店や本店が散らばっている企業もあるだろう。そのような企業で東京の本社社長を筆頭に緊急時だからと言って、全権集中型のピラミッドにしたらどうなるか。例えば、地方の支店や工場が災害に遭ったとし、それを現場から離れた東京の本店の社長が全て指揮するということになると、東京からのマイクロマネジメントが発生し、現場は報告業務に忙殺され、必要な作業ができなくなる。

よく、考えてみれば、この社長を筆頭としたピラミッドを作るということは、平時と全く変わらない組織で対応するということを意味する。社長の下にぶら下げる組織の名称を、米国のICSの真似事をして作り変えたところで、何の意味もない。中小企業庁は、緊急事態の本質を全くわかっていないし、ICSとは何かも全く理解していない。

米国ICSというのは災害現場に立ち上げる臨時組織(プロジェクトチームのようなもの)の組織機能や施設機能を定義し、それらの機能に対する資源の割り当て方のルールなどを定めたものである。その資源や組織サイズというのは、災害の大小によっても異なるし、その指揮官も時と場合によって異なる。しかし、指揮官は現場に近いところにいなければならないのであって、小さなインシデントだったら課長レベルでの指揮、中ぐらいのインシデントだったら部長くらい、大きなインシデントだった支店長や工場長などのようにしなければならない。東京本社の社長の任務は、あくまでも現場の支援であり、現場から資源が足らないから送ってくれと頼まれれば送ってやり、交代要員が必要だと言われれば派遣してやる、といったような調整業務を主とするものにしなければならないだろう。

緊急事態が発生した場合、その緊急事態を解決するための戦略を意思決定するのは現場である。全ての状況が把握できるのは現場以外にはない。日本では「指揮」と「調整」の違いがわかっていない人が多いようだ。