病院間衛星通信・・・電波法1条は?

総務省は、災害医療や救護活動の非常用通信手段に関するガイドラインを公表した。

情報源: 災害拠点病院に衛星データ通信の確保推奨-総務省、ガイドライン公表 (医療介護CBニュース)

総務省報道資料

災害拠点病院間に衛星通信を導入すること自体は、当然必要だし、これまでにも導入が進められていたはずだが、この総務省の報告書の背後には、一部の日本の衛星事業者の思惑があると考えざるえない面がある。日本に飛来している衛星からの電波には、日本事業者のものと外国事業者のものとがある。外国事業者のサービスは、日本だけでなく、全世界をくまなくカバーし、できるだけ多くの人が利用できるようにしているため顧客ひとりあたりが使用できる通信速度は中速度(1Mbps以下)である。他方、日本事業者のサービスは、日本だけを照らす強いビームを持っているため、高速度(2Mbps以上)の通信が可能である。もっとも使用している電波の周波数帯の違いによる影響もあるのだが、この報告書には「低速-中速の衛星データ通信は「不向き」」などと書かれており、意図的に外国事業者のサービスを排除しようとしているのではないかと考えざる得ない。

災害時には音声通信が重要になることはこの報告書にも書かれているとおりであり、間違いのない事実である。しかし、ひとつの音声通信に必要になる帯域は通常の回線交換方式で30kbps程度であり、IP電話の場合でも最近の技術によるものであれば200kbpsもあれば十分に通る。災害時には音声通信だ、などと言っておきながら、データ通信は高速通信が必要だなどと推奨するのは、矛盾しており、背後にいる事業者の営業思惑があるのではなかろうか。

そもそも、高速データ通信が必要になるのは高画質の動画中継が必要な場合ぐらいである。それ以外には全く必要ない。しかし、災害時に高画質の動画中継など実施しようものなら、電波の帯域がそれだけによって占有されてしまい、他の通信が通らなくなる。災害時に高画質通信を行おうとするのは愚かな行為である。高画質でないと遠隔医療ができないなどという理屈もあるかもしれないが、災害時に遠隔医療などが本気でできると思っているのだろうか。はっきり言ってこれはバカバカしいアイデアである。現場の医師で対応せざる得ないのは明らかだ。通信が必要なのは、現場に不足する資源の支援要請などを行うためである。そのための通信は、音声やテキストメールである。それ以上の帯域を食う通信を実施することは他の人の通信機会を奪うことになり、災害マネジメント全体に対する脅威である。

10年位前、Sバンド衛星放送事業者「モバホ」が倒産間際に総務省で「ナントカ検討会」を開催し、公的な利用を促す報告書を出したのを思い出す。いずれも、困ったときの官頼みなのかもしれない。モバホにしろ、今回の背後にいるかもしれない国内衛星事業者にしろ、最大の間違いはガラパゴスで生き残ろうとしていることである。衛星事業は日本市場だけではやっていけない。市場が小さすぎる。

この検討会に参加している国内衛星事業者には総務省からの天下りが何人かいるのではないだろうか。総務省のOBがいそうにない事業者(外国事業者の代理店等)が検討会に参加すらしていない点にも不公正を感じる。これは、自分たちの天下り先企業を儲けさせなければという意図ともとれる。災害マネジメントに弊害をもたらす可能性すらある内容であり、強制力のないガイドラインと言えども、問題は極めて大きい。

災害時には通信トラフィックが急増するため、本来なら、多くの利用者が限られた帯域の中で効率的に必要な通信ができる技術開発を促進するのが総務省の役目であろう。電波は有限資源であり「電波の公平且つ能率的な利用を確保すること」が電波法の目的であるとその第一条に書かれているところである。「病院の通信は重要なので衛星で専用ネットワークの構築を推奨し、それを支援する」ということならまだ理解できる。しかし、そうではなく、電波の有効利用を促進することがそのミッションである総務省が、災害時に大容量通信をすることを推奨するとは何事か。重要なのは速度ではなく、専用性があるかどうかである。開いた口が塞がらない報告書である。

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