資源と機能(ファンクション)

1.機能(ファンクション)とは何か

『男はつらいよ 拝啓車寅次郎様』(シリーズ第47作)中でのフウテンの寅さんと甥の満男の会話に次のようなシーンがある。

大学卒業後、満男は靴会社に入社し、営業をしている。靴のセールスに嫌気がさし、家族に愚痴をもらす満男のところへ寅さんがやって来て1本のえんぴつを目の前に差し出し、「このえんぴつをオレに売ってみろ!」と言う。満男はしぶしぶ寅さんに売ってみる。

満男 「おじさん、このえんぴつ、買って下さい。ほら消しゴムつきですよ」

寅さん 「いりませんよ。僕は字も書かないし、そんなもの必要ありません! 以上!」

満男 「あ・・・そうですか・・・」

寅さん「そうです!」

満男 「・・・・・・」

寅さん「どうしたんだい?それだけかい?」

満男 「だって、こんなえんぴつ、売りようがないじゃないか・・・」

全く売ることのできない満男に「貸してみな」とえんぴつを取り上げしみじみとした口調で寅さんが語り始める。

「おばちゃん・・・オレはこのえんぴつを見るとな、お袋を思い出してしょうがねえんだ。不器用だったからねぇ、オレ、えんぴつもろくに削れなかった・・・。夜おふくろが削ってくれたんだ。ちょうどそこの辺に火鉢があってな。その前におふくろは正座してさ~白い手で「肥後守」もって、スイスイ、スイスイ削ってくれるんだ。その削りカスが火鉢の中に入って、ぷ~んと、いい匂いがしてなあ。きれいに削ってくれたそのえんぴつを俺は、落書きばっかして勉強一つもしなかった。でも、これくらい短くなるとな、その分だけ頭が良くなったような気がしたもんだ。ほら、安くするから持っていきな。」

しみじみとした寅さんの話を聞いていた周りの人たちは、「一本ちょうだいな!」・・・

と買ってしまう。

我々が何かを買う場合、実は我々が買っているのは、その物自体ではなく、その物に付随し、顧客にとっての価値を生み出す「機能」を買っている。物を売るためには顧客に価値を与えないと顧客は買わない。

あらゆる資源には必ず機能がある。物は「機能」と「本体」に分けることができる。「機能」は、経済学では「効用」とも呼ばれているが、それを必要としている顧客に対して価値を感じさせる大元である。

えんぴつという資源は最もシンプルなものであれば、顔料を固めた芯とその外側の木材から構成される。顔料には「紙に色がつく」という機能があり、木材には「加工が容易にできる」という機能がある。この資源を組み合わせ、新たに「手に持って紙に字や絵を書かける」という機能を生み出したものが、基本的なえんぴつである。

あるメーカーのえんぴつは、それに消しゴムという資源をつけて「間違えた時にすぐに消せる」という機能を付加しているだろう。さらに、その木材の上に金メッキをすれば「美しさで癒される」という機能も追加される。そのえんぴつが有名メーカーの商品であれば、そのメーカーの「ブランド」という目に見えない資源によって「安心できる」という機能が付加される。

寅さんは、さらに「寅さんのしみじみとした経験」という目に見えない資源で「頭がよくなりそうな気がする」という機能を追加した。ひょっとするともう一つ、「寅さんの優しさ」という資源が加えられ、「親しみが持てる」という機能も加わっているかもしれない。

経営学者でマネジメント研究の第一人者であるピーター・ドラッガーも、「顧客が価値を認め購入するものは、財やサービスそのものではない。財やサービスが提供するもの、すなわち効用[1]である。」[2]と述べ、同じような例を示している。

『キャデラックをつくっている人たちは、自分たちは自動車をつくっており、事業の名前はGMのキャデラック事業部であると答える。だがはたして、キャデラックの新車に大枚のドルを支払う者は、輸送手段としての車を買っているのか、それともステータスシンボルを買っているのか。

1930年代の大恐慌のころ、修理工からスタートしてキャデラック事業部の経営を任されるにいたったドイツ生まれのニコラス・ドレインシュタットは、「われわれの競争相手はダイヤモンドやミンクのコートだ。顧客が購入するのは、輸送手段ではなくステータスだ」と言った。この答えが破産寸前のキャデラックを救った。わずか2、3年のうちに、あの大恐慌にもかかわらず、キャデラックは成長事業へと変身した。』[3]

危機管理の分野でも同じような成功例がいくつもある。有名な例は、「釜石の奇跡」である。

『ハザードマップを信じるな』[4]

2011年3月11に発生した東日本大震災では巨大な津波が東北地方沿岸に押し寄せ、甚大な被害が出たが、釜石の小学生達はその柔軟な判断により、難を逃れた。釜石市の防災計画では「津波が発生した場合には〇〇に避難すること」と避難場所が指定されていたが、彼らはそれにとらわれず大きな津波が来そうだと判断するや、より高いところ、そしてそれも危ないなと判断すると更により高いところへと柔軟に変更していったのである。これは、事前の訓練や教育の賜物であるが、多くの人たちが事前に行政が定めた避難場所に行けば安全だと考えて指定避難場所に避難して津波にのまれていたので彼らの行動は「奇跡」として大きく報道された。

あらゆる資源には機能があり、顧客が必要としているのはその機能である。指定避難場所というのもひとつの資源で、その機能は「津波から守る」ことである。小学生達が必要としていたのは「津波から守る」という機能であって指定避難場所という資源に行くことではない。そこを彼らは自分達で考え、必要な機能を提供してくれる資源を柔軟に選んだ、ということである。

よく考えれば当たり前のことであるが、寅さんの例、キャデラックの例、そして釜石の例に見るように必要な機能を意識し、そのために必要な資源を選択するというのは意外と難しい。

一本のえんぴつやキャデラック、指定避難場所の例は物的資源であるが、機能は人や組織や場所、そして本体が目に見えない資源まで、あらゆる資源に必ず存在する。一本のえんぴつの例に示した「ブランド」「寅さんの経験」「寅さんの優しさ」は目に見えない資源である。

物的資源が「本体」と「機能」に分けることができるのと同様に、組織も「本体(人)」と「機能」に分けることができる。営業部という組織の機能は「自社の商品を売る」ということであるし、製造部の機能は「商品を作る」ということになる。それぞれの組織に属している人はその機能を実現するための人的資源である。ある会社の営業部には「商品を売る」という主たる機能の他にも「顧客の声を聞いて新しい商品を企画する」という付加機能があるかもしれない。しかし、別の会社では「新しい商品を企画する」という機能は営業部ではなく商品企画部などという独立した組織を設置しているところもあるだろう。このように同じ「営業」という名称の組織であっても、「営業」という機能をどのように定義するかによって仕事の内容は異なってくる。

経営学の世界では組織の機能のことを特に「ミッション(使命)」と呼んでいる。上記に例示した「商品を売る」や「商品を作る」という機能は、それぞれ営業部や製造部のミッションである。ミッションは、もっと大きな組織の単位、例えば企業全体でも設定できる。ユニクロのミッションは『いつでも、どこでも、だれでも着られる、ファッション性のある高品質なベイシックカジュアルを市場最低価格で継続的に提供すること』[5]であるし、マイクロソフトのミッションは『世界中のすべての人々とビジネスの持つ可能性を最大限に引き出すための支援をすること』[6]である。

組織の機能は、様々な次元で細分化することが可能である。営業部という組織が国内営業部と国外営業部に分かれている場合、国内営業部の機能は「日本国内に自社の商品を売る」、国外営業部の機能は「外国に自社の商品を売る」ということになる。また、官公庁営業部などといった場合には「官公庁に自社の商品を売る」という機能になる。

機能は、物や組織以外の資源、例えば、お金や情報、その他、目に見えない資源(信用、ブランド、のれん、知識、経験、ノウハウ、優しさ、電波、放射能、時間など)にもある。多くの企業は、目に見えない「信用」という資源の上に成り立っているが、この「信用」という資源には「顧客を安心させる」機能がある。故に何らかの不祥事等により、この「信用」という資源が吹き飛んでいくと顧客を不安にさせ、顧客が離れていく。

「機能」の英訳は「ファンクション(function)」である。どのような機能が必要なのかをまず定義し、機能に対して必要な資源を割り当てていく手法を「ファンクショナル・アプローチ(機能中心主義)」と言う。油断すると私たちはまず資源ありきの考え方をしがちであるが、どんな機能が必要とされているのかをまず考えて、それに必要な資源を柔軟に提供するようにしないと寅さんのような成功はない。

このように機能は、「資源に付随し、顧客にとっての価値を提供する仕事や効用」を意味するが、その切り口や見方によっては、どのようにでも定義することができる。そのような中で、時間をひとつの軸とした切り口で定義した機能は「プロセス」と呼ばれる。プロセスは、時間の流れに沿って順番に発生する仕事である。仕事の「段階」ともいうことができる。製造業にありがちな「仕入」「製造」「販売」という区切り方をした場合、これらは順番に発生する仕事である。このような機能がプロセスである。


2.資源とは何か

では、資源とは何だろうか。ここで資源と呼んでいるものは、石油やガスのような天然資源だけではない。人や組織、物資、資機材、土地、建物、お金、ソフトウェア、能力、性能、戦略、方法、計画、技術、情報などの目に見える経営資源、更に、知識、経験、ノウハウ、ブランド、のれん、信用、愛情、サービス、時間、電波、放射能などの目に見えない資源まで、価値あるもの全てが含まれる。

資源は、物資や建物のように止まって動かないものばかりではない。風や火、電波、放射能のように我々の意図せぬところまで自由に動いてしまう資源もある。そして、資源にはプラスの機能のみならずマイナスの機能、すなわち害を及ぼすものがある。放射能は目に見えない資源で何かに付着すると風にのってどこまでも広がっていく。放射能は、適度な量であれば、レントゲンとして人間の内部を透視して写真に写し出す機能があり非常に有益であるが、強すぎると人間を死に至らせる機能がある。風も適度な強さであれば、人間に涼しさを与える機能があるが、台風のように強いと物を破壊する機能がある。ほとんど全ての資源にはこのようにプラスの機能とマイナスの機能が同居しており、役立つ道具にもなるが、凶器にもなるのである。

動かない資源 動く資源
目に見える資源 天然資源、食品、資機材、土地、建物、お金、情報、ソフトウェア、戦略、方法、計画、性能、能力、技術など 人間、動物、波、雷、光、火など
目に見えない資源 知識、経験、ノウハウ、ブランド、のれん、信用、サービス、愛情、時間など 風、電波、放射能、地殻変動など

資源の例


3.機能に対する資源配分

ところで、機能に対して人や物などの資源を割り当てる場合、必ずしも、個々の機能に別々の資源を割り当てる必要はない。ひとりの人やひとつの物が必要な全ての機能を提供してもよい。ある人が会社を起こした時、仕入れから営業そしてサービスまで全ての会社の機能を社長がひとりで担っていたなどということはよくあることだが、ひとりでやっていたとしても、会社という組織であることには変わりない。ビジネスが拡大していくと、業務量が増えるため社長がひとりでやっていくことができなくなり、会社の一部の機能を別の人に任せることになる。実は、このように最初は一人で複数の機能をこなし、必要に応じて、各機能に別の資源を配分していくという発想が、インシデントマネジメントでは基本になる。


[1] 経済学における「効用」と本書における「機能」と呼ぶものは同じである。

[2] P.F.ドラッカー[2001]、16ページ

[3] P.F.ドラッカー[2001]、24~25ページ

[4] 畑村洋太郎[2011]、116ページ

[5] ユニクロホームページ(http://www.uniqlo.com/jp/corp/mission/) より

[6] マイクロソフトホームページ(https://www.microsoft.com/ja-jp/mscorp/mission/default.aspx) より

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