UBERによる資源配分

供給可能な資源を有効に使って、需要のあるところへ分配する、言い換えれば需要と供給をうまくマッチさせること、これは古くて新しい問題であり、昔から経済学では市場に任せて自然に最適な配分がなされるのを信用するのか、特定の優秀な人に任せて人為的な配分に依存するのか、という2元対立の中でその両極端の間を行ったり来たりしながら、分配は行われてきたようにと思う。言い換えれば、アダム・スミスの「神の見えざる手」はどこまで信用できるのか、という問題である。

インターネットは、もともと、このマッチング分野で非常に有効で、ネットオークション、求人、不動産、物々交換、情報交換に至るまで、結局のところ、何かと何かのマッチングサイトであるサービスは非常に多い。言い換えれば、インターネットは「神の見えざる手」を支援するためのツールだと言っても過言ではない。経済学は、市場が完全であるための条件のひとつとして、「情報の完全性」を挙げる。情報の非対称性、言い換えれば情報格差があると市場は失敗するが、インターネットにより、この情報の非対称性を改善できる。

そんな中、空いてる人や物を有効にそれを必要とする人に提供しましょうという、いわゆる「シェアリング」ビジネスが最近注目を浴びているが、そんなシェアリングビジネスの筆頭とも言えるのがUBERだろう。他にも空いている部屋を他人に貸すことを仲介するエアビーアンドビーなども有名だが、私は外国に仕事で行くときには必ずUBERを使用する(注:残念なことに日本では規制のハードルが高いためか、なかなか普及しない。)。

もともとのUBERは、一般の乗用車をタクシー代わりに使用するライドシェアである。道端のどこにいてもスマホのUBERアプリで車を呼ぶと、その正確な位置が付近を走っているドライバーのスマホの地図上に表示されて、ドライバーが迎えに来てくれる。待っている方も今ドライバーがどこを走っているのか地図上に表示される。迎えに来てくれるのは普通の乗用車の普通の人である。決済は全てアプリに登録されたクレジットカードで行われ、現金の授受はなく、金額は予め見積もりが表示されるし、走っているルートも地図上に表示されるので、遠回りして余計な金額がかかったり、ボラレたりする心配もない。ドライバーも、ユーザーも相互に5段階評価されるので、評価の低いドライバーにはお客がつかないし、評価の低い客にはドライバーが迎えに来てくれない。よく考えられている面白いシステムである。問題は、これが普及してしまうと既存のタクシー業界には非常に大きな脅威となることであろう。しかし、他国を見ているとスマホを使いこなせない人などは依然として普通のタクシーを使っているので、直ちに脅威となることはないとは思う。

そのUBERの新サービスに「UBER EATS」がある。これは、レストランに食べ物をユーザーが注文を出すと、登録された配達員が自転車でレストランに取りに行き、彼らが自転車でユーザーまで届けてくれるというものだ。よくあるピザの宅配などのようにその店が雇った専属の配達員が配達してくれるのではなく、UBERに登録した学生などの暇を持て余している人が自転車で配達してくれるのである。従ってレストランは独自の配達員などを雇うことなく、簡単に宅配サービスを提供できる。なお、配達料は追加でかかり、外国では5〜6ドルかかっていたが、東京の一部で開始されている日本のサービスでは380円らしい。これもライドシェアと同様に配達員が今どこを走っているのか地図上に表示されるし、配達員などの評価システムもある。

最近、ふとUBERって欧米の戦術情報システムとも言えるCommon Operational Picture(COP)そのものではないかなと思った。UBER EATS的なシステムがあると災害時の資源配分にも多分役立つ。よく避難所に適切な支援物資が届かないことが指摘されるが、支援物資を必要としている人、支援物資を提供する人、支援物資を配達する人を別々に登録し、それぞれを最適にマッチングできれば、支援物資があるところには集中し、ないところには全然届かないなどという「政府の失敗」は少しでも改善されるだろう。

なお、COPを組織の上層部の人の意思決定を支援するものと勘違いしている人が多いが、COPの目的は全く逆で、組織の末端の人々が自立的に意思決定することを支援するための情報システムである。一昔前のタクシーの配車をイメージしてみよう。お客がタクシー会社に電話し、タクシー会社が最も近くを走っている車にタクシー無線を使って送迎に行くよう指示し、指示された車が迎車する、という仕組みだった。これは情報をタクシーの配車センターに集約し、適切な車を配車する、すなわち中央集権的に資源配分である。対して、UBERは、このような中央集権的な資源配分システム無しに、必要としている人、迎車可能な車などを情報システムを使って自立的にマッチングする。提供可能な資源は誰からも指示されることなく、自立的な意思決定によって配分されるのである。

但し、携帯電話の電波が届いていること、電源がとれること、使う人々のITリテラシーが高いことなど幾つかの条件が満たされることが必要にはなるので、電気もなにもいらないアナログ式の配分システム(ICS的な標準化はその一つの方法)も必要にはなるとは思う。ICSを中央集権的な意思決定の支援システムと勘違いしている人も多いが、実はICSも、可能な限り低いレイヤー、すなわち、現場レベルでの意思決定とその資源配分をアナログ式に達成するために標準化した仕組みである。マネジメントシステムの標準化の目的も実はココにある。

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