災害時の資源配分とジャスト・イン・タイム方式

被災地で必要なものは何か

大地震などの災害が発生すると「今被災地で必要なものは何か?」という議論が必ず発生する。専門家なる人物がテレビに出てきては、現地ではあれが足らない、これはもういい、こうしたほうがいい等々、自由活発な議論をする。それはそれでよいのだが、こうしたことはその一部の先生方が現地へ赴き、ごく一部の人たちから見聞きした、非常に断片的な情報に基づくものであって、決してマクロ的な全体を代弁したものではない、という点を我々は認識しておく必要がある。中にはそういう人もいるだろうし、そうではない人もいる。人のニーズというのはそんなに画一的ではなく多様なものである。必要な情報とは、Aの状況の人が全体の何割ぐらい、Bの状況の人が何割ぐらい、Cの状況の人が何割くらい、というおよそでもいいから全体を推測した情報である。

こうした情報を統計手法を駆使して分析すること、マーケティングの手法を駆使して正確に需要予測できるのであれば、政府のプッシュ型支援なるもの、政府による計画的配分で必要充分ということになるのだが、災害という大混乱のなかでは正確な需要予測など実際には難しい。ではどうすべきか。それがここで述べるジャスト・イン・タイム方式(Just In Time方式:以下JIT)、すなわちトヨタのカンバン方式の採用ということになる。後工程から前工程に対する要請主義、プル型といってもよい。

人・モノ・金・情報と災害対応

資源配分(ここでいう「資源」とは、救助隊等の人的資源や資機材、燃料、食料、医薬品等のすべての人・モノ・金・情報を含む概念)は「最適に配分する」ことが重要で、不足してはいけないが多すぎるのも問題である。東日本大震災に限らず、災害現場の避難所では、食料品などの支援物資が足らないところがあった一方、置き場に困るほど届いているところもあった。このように余分な物資が避難所を占有してしまうと、その分、人の避難スペースに支障を来すことにもなる。

これらは経営学でいうところの「在庫」であり、在庫とは無駄な費用です。スペースも無駄にするしお金も無駄にする。余計な物資の運搬に運送業者等の人員が割かれれば、これらの人員が他の必要な物品の運搬に割り当てることができたであろう時間(これは機会費用「Opportunity Cost」であってやはり一種の「費用」)をも浪費する。このように我々は災害時であっても常に最適配分を意識しなければならない。

今述べたような議論は、おおむね食料や住居、生活物品などのような物的資源の分配に関するものですが、災害が発生してから収束するまでのさまざまな問題を解決するために、現場はさまざまな資源を必要とする。

資源は目に見える物品や燃料などの物的資源だけではありません。現場に入る自衛隊や消防のような救助隊も人的資源(Human Resource)である。モノの購入に必要なお金も資源であるし、人やモノの割当を決めるために必要な情報も資源である。「人」「モノ」「金」「情報」これらはすべて経営学で経営資源と呼ばれる「資源」である。これらの資源を目的を達成するためにいかにして効果的に割り当てるか、これを決定し、その効果を継続的にモニタリングして、必要に応じて継続的に改善していくためのしくみがマネジメント・システムと呼ばれるところのものである。

災害対応のプロセス

その時まず必要になってくるのは、決定したり、モニタリングしたり、改善するための「プロセス」です。どんなマネジメントシステムでもまずプロセスをきちんと定義する。もっとも単純化されたプロセスとしては、PDCAサイクル(PLAN-DO-CHECK-ACTION)が知られているが、実際には目的に応じてこれらのプロセスがさらに細分化され定義されている。そしてこのプロセスというフローのなかで必要となる機能(ファンクション)を決め、それらの各ファンクションに対して、人、モノ、金、情報といった経営資源を割り当ててていく。

2016年4月14日に発生した熊本地震では、市庁舎などの防災拠点が地震で倒壊の危機にさらされ使えなったが、これは防災拠点というファンクションに市庁舎という資源を割り当てられていたところ、その資源が使えなかったということを意味する。災害マネジメントであるファンクションに特定の資源を限定的に割り当ててしまうと、このようなことが起きてしまう。

残念なことに、日本の防災計画では、このように特定の資源を固定的にあるファンクションに紐づけている例が多い。しかし、このようなことをしていると大概予期せぬ事態に遭遇して身動きがとれなくなる。人という人的資源の場合も同様である。ある特定の人の仕事(つまりファンクション)を固定的に防災計画のなかで規定してしまうと、その人が何らかの事情でいなくなるとそのファンクションが提供されなくなる。必要なのはファンクションであって、特定の人やモノではない。災害対応の指揮官もケースバイケースで異なると思っておかなければならない。アメリカなどでは、最初に現場に到着した人が指揮官になるとだけ決まっており「誰が指揮官をする」とは決められていない。決めることなどできない。

つまり、ファンクションと資源の関係は、防災計画では柔軟に考えておかなければならないということである。実際には、災害が発生してから資源の割り当てを考えざるえない場合がほとんどで、事前に固定的な資源配分を防災計画で決めてしまうことは望ましくない。例示的な意味合いに留めておくべきことである。

ファンクショナル・アプローチとジャスト・イン・タイム方式

このようにファンクションに応じて資源を割り当てていく方法を「ファンクショナル・アプローチ」という。災害が起きる前にこのファンクションを定義し、日本国中のみんなが共通理解をもっておくことができれば、臨機応変に組織が編成されたとしても、各自の役割をすぐに理解することができるし、代替資源を供給することも容易になる。また、プロセスがきちんと定義されていれば混乱する災害のなかでも必要な作業を漏れなく、ダブりなく進めていくことができる。

そして、このしくみを効果的に動かすためには、各プロセスのなかで流れる情報の定型フォーマット(例:アメリカのICS各様式)を決めておくことである。そして各資源のチェックインを管理すること(アメリカでは救助隊や支援物資といったあらゆる資源をStaging Areaという場所にチェックインさせて一旦プールし、そこから必要なだけピックアップしていく)が極めて重要になる。

これは災害対応というマネジメントシステムを、トヨタのカンバン方式(JIT)のようにするということにほかならない。災害対応版サプライ・チェーン・マネジメント(SCM)と言っても過言ではない。トヨタのカンバン方式では、カンバンという定型フォームを各製造工程(プロセス)のなかで行き来させることによって、擬似的な注文生産のような工程を構築し、在庫を極限までなくすことに成功したことから、世界が注目したマネジメント・システムである。

筆者が2003年にアメリカジョージ・ワシントン大学危機管理スクールでアメリカ流危機管理を学んでいたとき、あるFEMA OBの教授が「Just-in-Time !」「Just-in-Time !」と強調していましたが、教授は私が日本人だということ見て「これはおまえの国から学んだことなんだぞ」とでも言いたかったのだろう。

しかし、我が国ではモノづくりでこそJITが根付いたが、それを災害対応に応用するなどということは、現時点では思いもよらないことのようである。そんなこと言い出した途端に「災害対応と自動車の製造を一緒にするな!」と言われそうだが、よく考えてみればどちらもマネジメント・システムの問題であり、目的やアウトプットが異なるだけであって、自動車のドアやエンジンなどの部品の代わりに、First Responder(自衛隊・消防・警察等)、DMAT、NPO、ボランティアや支援物資という部品を投入して、一定のアウトプットを産出するための工程にほかならない。災害は千差万別なので、まさに特注の注文生産工程が必要なのである。「人間は部品ではない」と怒る人もいるかもしれないが、経営科学という観点では、部品=資源であり、人=人的資源=資源である。従って、部品=人。この点を割り切って考えていかないと災害対応の仕組みを改善することは難しい。