茨城・常総市の豪雨災害・・・災害時の通信手段等

各種の報道によると昨日の常総市の豪雨災害に出動したヘリコプターは、自衛隊・消防・警察・海保・各県防災ヘリなど動員できるものが最大限に動員され、およそ20機のヘリコプターで昨日午後だけで150人程度吊り上げ救助したようだ。堤防が決壊したのが、10日の午後1時頃らしいので、今回はこれまでになく異例の迅速さで各機関がヘリコプターを派遣し、Search and Rescue(SAR)活動に従事したといえる。首相の動員指示や東日本大震災の教訓などもあるかもしれないが、30年前だったら役所間のセクショナリズムによって陸上災害へ海保のヘリコプターを派遣するなどということは考えられなかったし、これだけ多くの機関のヘリコプターが各機関間で調整されて運用されるなどということはできなかったであろう。これは大きな改善であるし、評価に値する。

このような調整を行うためには各ヘリコプター間に共通の通信手段が必要だが、ヘリコプター等の航空機同士の場合は、ICAO(国際民間航空機関)が定めた条約とITU(国際電気通信連合)の無線通信規則(RR)という条約によって国際的に標準化された通信周波数(121.5MHz)というものが、全ての航空機に搭載されているし、123.100MHzという救難作業用周波数も指定されているので、比較的、連絡調整を行いやすいというメリットもあったろう。「当ヘリはこっちを救助するのでおたくはあっちを救助してもらえないか。」みたいな調整作業もこのような共通通信手段があれば容易にできる。

だが、地上で活動する異なる機関の部隊間の共通通信手段というのは、十分に機能するものがないというのが現状である。緊急通信用周波数として158.35MHzや466.775MHzという防災相互連絡波が指定されてはいるものの、十分活用されていないと関係省庁の役人は述べている。これらの周波数を使用するためには各機関の保有する無線機にこれらの周波数と変調方式を搭載しておかなければならないが、往々にして、各機関の無線機というものは通話の秘匿性を重んじて独自仕様の独自周波数のものが使用されているため、これらの周波数を使用できるものが少ないのであろう。

災害時の救助隊の運用は、伝統的なPTT(Push-To-Talk)型の無線機によるのが通常である。携帯電話を使用している者も現在は多いとは思われるが、商用通信手段である携帯電話などは大災害時には発信規制やネットワーク自体の被災などにより使用できないことが多く、あてにしては本来いけないものである。

PTT型無線機というものは、1対多型、つまり、1人がPTTボタンを押して送信すると、同じ周波数を聴取する他の多数はその内容を同時に聴取できるため、情報の共有や各部隊の構成員に対する指揮命令のためには最も理想的なものである。携帯電話などの交換式の電話は、かけた電話番号の人とだけ通話ができるタイプの1対1型通信であり、効率的な情報共有ができないので、災害時などの組織運用は基本的にPTT型無線で行わなければならない。

ただし、このPTT型無線機には大きなデメリットがある。相手の無線機の周波数や変調方式が異なると通信できないこと、及び、VHFやUHFといった無線周波数の到達距離内でしか使用できないことである。VHFやUHFという電波は直進性が強く、電離層反射もないため、基本的に水平線の向こう側へは電波が届かない。この点、携帯電話などは、相手が契約しているキャリアが違っても通話できるし、相手が地球の裏側にいても世界中の電話交換網を経由してつながる。しかし、時間との戦いになる災害時には携帯電話のような誰とでもつながるメリットよりもPTT型無線機の情報共有メリットの方を優先しなければならない。

では、現代の技術でPTT型無線機のデメリットを解消することはできないのであろうか? 当然ながらできる。1つの手段は、レピーター局(中継局)を置くというものである。レピーターは中継局で受信した電波を別の周波数で再送信して、遠方まで電波を飛ばす、というものである。消防など一部の官公庁では、すでに車載型のレピーター局などを用意しているようである。しかし、これは、往々にして各組織独自の特注品となるため、巨額の開発費もかかり、膨大な予算が必要になる。

他の手段は、市販されているRadio over IP(RoIP)端末を使用するというものである(詳細はこちらを参照)。これは、既存の無線機の音声入出力信号をIP化し、衛星などのIP網を経由してどことでも通信できるようにするというものである。これは欧米ではかなり使用されており、実証されている。無線機に音声入出力端子さえあればよいので、無線機の種類やメーカーには殆ど依存しないため、異なる組織が異なる無線機を使用しているような場合でもちょっとした接続ケーブルさえ用意しておけば接続できる。さらにインマルサットBGANなどラップトップ型の衛星端末を介して使用すれば、携帯電話網などの地上の通信網が災害でアウトになった場合でも影響を受けることがない。

類似の商品として最近は「IP無線」と称する無線機が携帯電話のキャリアや無線機メーカー、MVNOなどから販売されているが、これは一言でいえば「無線機の形をした携帯電話」であり、通常のPTT無線機の無線周波数の代わりに携帯電話の周波数と携帯電話網が使用されているものである。携帯電話網が使用できるため、電波の見通し外へ接続でき、広域性が確保できるメリットがあるが、携帯電話網を使用しているということは、災害時に携帯ネットワーク自体がアウトになったら使用できない。タクシー無線などのように災害時の運用を前提としない平常時の通信手段としてはよいが、災害時にもこれを使用するという前提にすると命取りになる。(以前紹介した「Viber」にも最近はPTT機能が付加されているいるので既存のスマホにアプリをインストールして使用する一種のIP無線と呼ぶこともできる。)

筆者は元々は官庁で通信のエキスパートとして宮仕えしてきた者であるが、大災害が発生すると毎度毎度問題になるのが「通信」である。これまでにも散々様々問題が指摘され、高額で特殊な機器が開発されてきたが、高額で特殊なものを作ればよくなるというものではない。災害用という名目でも税金が投入される以上、やはり、コストパフォーマンスは重視されなければならない。コストを下げ、同じ機器をできる限り、広範囲の組織に行き渡らせるという発想の方がより重要である。無線機などの災害用途の機器は、各組織が同じものを持つ「標準化」が行われていることが最も望ましい。しかしながら、機器自体の標準化が困難なのであれば次善の策としてその「インターフェースの標準化」によっても目的は達成することはできる。日本の財政は1000兆円を超える借金を抱えた世界最悪の真っ赤な財政である。コストをできる限り抑えて様々な標準化を行っていく必要があると考える。

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