リスクマネジメント・プロセス

(出展:United States Coast Guard RBDM Guidelines

リスクベース意思決定手法(Risk-Based Decision Making(RBDM))

第一段階 意思決定のための構造確立(Decision Structure)

どのような意思決定をする必要があるのか、誰をその意思決定に参加させる必要があるのか、意思決定にはどんな選択肢があるのか、どんな要素が意思決定に影響するのかを明確にし、必要な情報収集をする。

第二段階 リスク評価の実施(Risk Assessment)

リスク(R)を、シナリオ(S)と発生可能性(L)と結果の規模(C)の関数として定義する。すなわち、同じシナリオであれば、

R=L×C

である。リスク評価とは、シナリオを定め、発生可能性と結果の規模を予測するプロセスである。

従って、まずシナリオ、つまり事故がどのようなプロセスで発生するかを明確にしなければならない。USCGでは、事故発生のプロセスとして、次の図を想定している。まず、あらゆる事故には、発生源となるHazard(危険要因)《例:LNG,水素、腐った素材、高圧力状態、火気、滑りやすい床、見えない相手船、暗礁、等》があり、通常これらのHazardにはSafeguard(防護手段)が講じられているが、何らかのCause(主原因)《不適切な船の構造、予防装置の不備、見張り不十分、劣悪な労働環境、適切な訓練の欠如、等》によってIncident(初期事故)《舵故障、燃料流出、誤った操船命令、等》へとつながる。なお、この間に更にExternal Influences(外部要因)《悪天候、等》が影響する場合が多い。更に、Incidentが何らかの外部要因(適切なアドバイザー不在、防護機器の欠如、等)を受けて、Accident(海難事故)《乗り上げ、衝突、火災、沈没、等》へとつながり、同様にConsequence(結果)《人の死傷、財産的損失、環境汚染、等》、更にEffect(外部効果)《スペースシャトル事故後の打ち上げ計画の延期、船舶事故による海上交通の混乱、等》へとつながる。

結果発生に至るシナリオ

このようにして、シナリオを明確にしたのち、そのようなシナリオが発生する頻度(可能性)(L)(△年に1度・・)は、どのくらいか、結果(C)(△円、◇人、大/中/小のような相対的なものでもよい・・)はどのくらいか(上記図面のEffectで数値化されたものと考えてよい)を数量化する。多くの場合、この結果を次のようにグラフ化する。右上にいけばいくほど何らかの対処を要する領域である。

評価手法には、上記のような簡単なシナリオ分析で行列(シンプルマトリックス)を作るものから、個人的な主観による判断によるもの、専門家による判断によるもの、統計的データによるものまで、様々な手法がある。(参照⇒リスク評価手法概要

第三段階 リスクマネジメントの実施(Risk Management)

リスクマネジメントの手段には、次の選択肢がある。

  1. 分散(Spread out)
  2. 転換(Transfer)
  3. 受容(Accept)
  4. 回避(Avoid)
  5. 低減(Reduce)

1.分散とは互いに相関の低い、または逆相関の複数のリスクを組み合わせることで、リスクの発生する確率(L)を軽減することである。金融の分野で複数の資産に分散投資することなどがこれに属する。 2.転換とは保険をかけることであり別の価値に変換することである。 3.受容とはリスクが顕在化した場合でも影響が小さいのでほっておくことである。 4.回避とはリスクが顕在化すると取り返しがつかない場合にリスクをとらないことである。例えば原発を作らないという選択をすることはこれに属する。 5.低減とは発生する結果(C)を最小限に抑えることである。Hazard(危険因子)の除去(例えば船の乗揚防止のために港を深く掘ること)やCause(原因)となる行為の予防(不注意を防止するためのアラームの設置など)、万一、事故が起きてしまった場合に緊急事態対処を実施し被害を最小限に抑えるIncident Management(米国で実施されているICS(Incident Command System)など)がこれず属する。Hazard(危険因子)の除去、Cause(原因)行為の予防、事故が起きてしまった場合のIncident Managementなどを総称してConsequence Managment(危機管理)と呼ぶ。

第二段階で算出されたリスクの値を考慮し、5つの選択肢のうちのどれをとるか決める。また、低減等のために更に複数の対処手段の選択肢が発生するので、どの対処手段をとるか決める。その際には、主として、有効性(efficacy)《どの位効果があるのか?》、実施可能性(Feasibility)《ほんように実施できるのか?》、効率性(Efficiency)《費用対効果は合理的か?》の3つの尺度から選択肢を決定する必要がある。(参照⇒意思決定支援ツール

第四段階 結果の評価(Impact Assessment)

実施の結果を評価し、将来の意思決定のための再検討材料にする。

各段階共通:リスクコミュニケーションの実施(Risk Communication)

リスクコミュニケーションとは、意思決定に関わる全ての利害関係者(Stakeholders)の間で、リスクに関する情報を共有するプロセスであり、現代社会における人々の意思疎通は、その大半がリスクコミュニケーションであるとも言われる。リスクコミュニケーションは、リスクに関する利害関係者(個人・組織を問わない)間の双方向の意思疎通であり、情報や意見の交換である。リスクコミュニケーションは、意思決定の第一段階から第四段階までの全ての段階で実施されなければならない。

リスクコミュニケーションの際、最も注意しなければならないのは「リスクパーセプション(Risk Perception)」(リスク認識)が、人によって異なるという点である。すなわち、ある人にとっては重大なリスクも、他の人にとっては大したことのないリスクであることが多いということである。同じリスクであっても人によって感じ方が異なるが、その個人にとっては、ひとつの現実であり、無視してはならない。例え、技術的にありえないリスク等であっても、リスクがあると感じる人がいる限り、それはリスクマネジメントの対象であり、リスクコミュニケーションしなければならない。

リスクコミュニケーションは、上記のような人によって異なるリスクパーセプションの中で行われるものであり、その最終的な目的は、信頼関係の構築である。

なお、リスクコミュニケーションは、いかにリーダーが誠実であろうとも、情報源の信頼性、情報の内容、情報の量(多ければ良いというものではない)、伝達手段、伝達時期・場所等によって結果が左右されるある種の技能(Skill)である。従って、リスクコミュニケーションする者は次の事項に留意しなければならない。(イ)利害関係者(一般大衆も利害関係者である)をパートナー(仲間)として扱うこと。(ロ)達成したい目標(Goal)を明確にすること。(ハ)聴衆の話を聞くこと。(ニ)正直かつオープンであること。(ホ)信頼されている他の情報提供者と一緒に行うこと。(ヘ)メディアの要求に応えること。(ト)明快にかつ理解しやすいように話すこと。

リスクマネジメント・プロセス」への3件のフィードバック

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