ガリレオSAR(捜索救助)サービスが正式に始動

The Galileo Search And Rescue (SAR) service, made possible by the Galileo satellite constellation, is now active. Galileo SAR is Europe’s contribution to the COSPAS-SARSAT network, a distress…

情報源: Galileo search-and-rescue service officially launched : GPS World

 

欧州が打上げたガリレオ衛星による捜索救助サービスが4月6日に正式に始まった。ガリレオ衛星システムとは、欧州版のGPSのようなものであり、物体の緯度経度を高精度で測位するための衛星システムである。GPSは車や携帯でも使用されているので多くの人が知っていると思うが、実はGPS以外にも欧州のガリレオの他、ロシアのグローナス、中国のコンパスなどがあり、中途半端ではあるが日本の準天頂衛星システムもこれに類するものである。

ガリレオのSARペイロード(遭難アラートを処理する装置)は、遭難した船舶や航空機から発射される406MHzの遭難アラートを中継し、地球上に数多く設置されたMEOLUTと呼ばれる地上受信局でそれを受信し、処理して遭難位置を算出する。このようなシステムは、もう、30年も前からあったが、それは、アメリカ、カナダ、フランス、ロシアが打上げた低軌道衛星(その多くは気象衛星に便乗したもの)で処理し、電波のドップラー効果を計算して位置を計算するものだった。しかし、地球を回っている低軌道衛星は、5〜6機しかないため、衛星が回ってくるまでに時間がかかり、最悪の場合は、遭難船が406MHzの電波を出しても、1時間半くらい衛星が回ってこないということもあった。

その点、ガリレオ衛星システムは、地上から2万キロ位の高さを回る中軌道衛星30機程度で構成され、地球上のどこで遭難しても、衛星が3つ以上見えるため、即座に遭難位置が計算される。

ガリレオの他、米国のGPSやロシアのグローナスにも同様のSARペイロードが搭載されるのだが、正式に運用開始を宣言したのはガリレオが最初ということになる。GPSやグローナスも中軌道衛星なので、これらは総称して中軌道衛星捜索救助システム(MEOSAR)と呼ばれている。

ガリレオのSARペイロードには、GPSやグローナスにはない「リターンリンク」とよばれる機能も付加されている。伝統的な406MHzビーコンは、遭難アラートを送信するだけの片方向通信機能しかなかったが、ガリレオリターンリンク機能を搭載したビーコンであれば、陸上の救助機関側からビーコン側に対して短いメッセージを送ることができるため、これまでにはなかった新しい機能である。

このMEOSARシステムは、船舶や航空機の遭難位置を高精度かつ迅速に測定できるものであり、非常に有効である。

なお、406MHzの電波を発射するビーコンは、船舶用のものはEPIRB(非常用位置指示無線標識)、航空機用のものはELT(航空機用救命無線機)と呼ばれ、もう30年以上も前から使われてきた。EPIRBやELTは沈没や墜落と同時に自動的に電波が発射される機能があるのだが、これら以外にも携帯電話程度に小型化され、ボタンを押すだけで遭難アラートを送信することができるPLB(携帯型救命無線機)と呼ばれるものもある。これがあれば、山の中での遭難など、陸上遭難でも非常に有効なのだが、実は、日本では、様々な制度不備のため陸上では使用できない。また、406MHzというUHFの電波なら、雪崩に巻き込まれたような場合でもその埋没深度が浅ければ、雪を通り抜けて、電波が衛星まで届く可能性もゼロではない(実験したことがないので正確なところはわからないが)。MEOSAR衛星から中継された406MHzの電波を地上の複数のMEOLUTで処理すれば数メートルくらいの誤差のピンポイント位置を出すことができる。

先日、紹介した雪崩ビーコンなるものは、457kHzという非常に波長の長い長波が使用されており、雪の中でも電波が通るという点はメリットなのだが、直進性の低い電波であるため、使い慣れないと埋没者の位置を確定できない。しかし、埋没と同時に406MHz波を送信することができるPLBのようなものが開発されれば雪崩捜索救助には役に立つかな、と一瞬思ったが、そのためには実験や開発するためのお金が必要だ。

 

増加する山岳遭難者を救助するためには?

今日のお昼のニュースによると新潟・長野・群馬で山岳遭難が発生し、7人と連絡がとれないという

このような山岳遭難が発生するといつも思うことがある。それは、山の中では携帯電話の電波が届かないため、110番も119番も使えない、家族にも連絡がとれないということだ。携帯各社は、主要な登山ルートにアンテナを立てたりしてはいるが、複雑怪奇な山岳地帯をマイクロ波を使っている携帯の電波で全てカバーすることはほぼ不可能である。非常に沢山のアンテナを立てればカバーできるかもしれないが、それは私企業である携帯電話会社にとってその投資を正当化できるような話ではない。

ユーザーにとっては普段使い慣れている携帯電話が使えれば、最近の携帯からの110番や119番ではGPSによる正確な情報も伝達されるため最も好ましいであろう。しかし、それが困難なのであれば次善の策として「衛星通信」に頼るしかない。しかし、これも実は日本では規制や制度不備のため使えないものが多い。

アメリカやオーストラリアでは、山岳登山者や砂漠旅行者などに幅広く使用されている「緊急信号発信機」がある。船舶や航空機では標準的に使用されているコスパス・サーサット(Cospas-Sarsat)という捜索救助専用の衛星を使用した個人用の小型ビーコン「PLB」(Personal Locator Beacon)というものだ。アメリカなどではアマゾンでも簡単に買えるし、ホームセンターでは山積みされている。まだ日本のメーカーは製造していないが、欧米のメーカーからはすでに携帯電話サイズや時計サイズの非常に小型なものまでが販売されている。グーグルで「PLB」をイメージ検索すると沢山出てくる。

仕組みは簡単で、ユーザーはいざという時ボタンを押すだけ。これだけで、地球上のどこで電波を出しても、衛星がキャッチし、世界中の最も適切な救助センターに自分の遭難位置を含む救難信号を配信してくれるというものだ。日本では船舶用のEPIRB(非常用位置指示無線標識)ELT(航空機用救命無線機)がすでに使用されており、小型船や小型航空機以外の船舶・航空機は法律で搭載が義務付けられているためもあるが多数の船舶・航空機に搭載され、有効に利用されている。

PLBの電波は地球上のどこで発射されても必ず衛星がキャッチし、各国政府が運用している地上受信局とデータの配信センターであるMCC(Mission Control Center)を経由して救助機関に連絡が届くことになっている。日本では海上保安庁が受信局とMCCを運用しており、日本周辺でEPIRBが発射されると海上保安庁のMRCC(海難救助調整本部)(全国11カ所)に救難信号が届けられ、同様に日本で航空機が墜落しELTが発射されると、海上保安庁のMCCを経由して羽田空港にあるARCC(航空機救助調整本部)にデータが届けられ、ARCCが警察や自衛隊などに協力を要請し、直ちに行方不明になっている航空機の捜索を開始する。

では、今、日本の山の中で、PLBが発射されたらどうなるか。PLB自体が外国では消耗品のように売られているので、外国旅行の際、購入してくることも不可能ではない。また、外国人旅行者が日本に登山にやってきて、遭難してPLBを発射することも想定される。日本ではまだPLBに関する電波法関連の制度が整備されていないが、遭難のようないざというときに免許されていない電波を発射すること自体は電波法も許容しており違反にはならない。しかしながら、日本で地上局とMCCを運用している海上保安庁から山岳救助を担当している警察機関にデータが配信される仕組みが整えられていないため、遭難信号は無視され、誰も救助には来ない。要するに縦割りの役所の壁を乗り越えられず、データがネットワーク上のどこかで止まってしまうということだ。

このように日本でPLBが導入されていない最も大きな壁は、山岳遭難の信号を適切な警察機関に届ける仕組みが確立されていないということである。この山岳遭難信号が届けられる仕組みが確立されればあとは総務省が電波法関連の技術基準などの制度整備をするだけである。こちらの制度整備はそれほど難しくないようなので、最も大きな問題は救助機関側の縦割りの弊害である。

日本は高齢化社会を迎え、高齢者による登山やハイキングも増加し、それにつれて山岳遭難も増加している。これらの人々がこのような小型ビーコンを携帯して登山に向かってくれれば、遭難者の位置特定も迅速に行え、救助される人も増加するであろうし、捜索に要する時間が短縮できるためその費用も大幅に節約されるであろう。

なお、コスパス・サーサットは各国の政府機関(40カ国以上が参加している)が拠出した税金で運用されている100%公的な衛星システムであるが、最近では民間の商用衛星を利用した救難信号発信機も諸外国では様々なものが出回っている。グローバルスター衛星を使ったSPOTというものがその代表的なものだが、実はこれも日本では利用できない。グローバルスター衛星に関する電波法関連の制度が確立されていないのがその主たる要因であるが、総務省では昨年の東日本大震災以後、すべての衛星系サービスが利用できるよう制度改正を急いでおり、恐らく近い将来使用できるようになるであろう。これは、基本的にメールで自分の家族などにメッセージを送り、救助を要請するものであるが、外国ではSPOTからのメッセージを直接政府の救助調整本部が受けており、救助活動が開始される仕組みをとっている国も多い。しかしながら、日本で同じ事をするためには、上記に述べたPLBの陸上配信に関する問題と同様の問題が発生し、容易なことではないであろう。

更に日本では衛星携帯電話による110/118/119も使用できない。衛星携帯には、スラヤインマルサット、イリジウム、グローバルスターなど様々なものがあり、最近、スラヤインマルサットの衛星携帯電話が日本で使用できるようになったことは非常に好ましいが、地上の携帯のように110/118/119とダイヤルしてもどこにもつながらない。NTTドコモが運用しているワイドスターという衛星とスラヤだけは、110/119の後に2桁の地域番号を入れてかければ警察・消防につながる。海保の場合だけは118のみでよい。例えば東京の110番センターにかける場合は110+31、札幌の場合は110+20である。消防の場合は今のところ東京にしか繋がらず、119+31とダイヤルする必要がある。そんな下2桁の番号を覚えているユーザーなどは恐らく存在せず、ユーザーにどこの警察に接続するか選ばせるという行為は不親切極まりないが、これも警察内部における県警と県警との縦割りの壁というべきものであり、役所のセクショナリズムそのものである。地上の携帯電話から110/118/119をダイヤルすると携帯電話の基地局に応じて最寄りの警察・消防・海保に接続されるが、警察の110番センターは各県警に1つ又は2つあるため全国に約50程度、消防の119センターは市町村が運営しているため全国に700程度あるそうだ。海保の118センターは全国に11カ所である。携帯電話や固定電話の場合は地域ごとに接続先を決めておけばよいのでそれほど難しくはないが、衛星の場合、日本全土が数個のセルでカバーされてしまうので、地上の携帯のように自動的に分けることは至難の業だろう。GPS等を使えば技術的には不可能ではないかもしれないが、コスト的に見合うものではない。アメリカなどでは、衛星911センターというコールセンターが存在し、アメリカ国内で衛星携帯にて911番をダイヤルするとコールセンターに接続され、オペレーターが適切な救助組織に接続してくれる。米国のように、基本的には日本のどこからも同じ番号とし、コールセンターが適切な機関に接続してくれるという仕組みがユーザー側からみれば望ましいものであろう。

そもそも、緊急通報特番そのものが110/118/119と3つもある国はあまりない(Wikipedia参照)。米国は警察も消防も911番のみ、英国でも999番のみである。多くの先進国が番号は一つである。米国では911とダイヤルするとPSAP(Public Safety Answering Points)【要するにコールセンターである。政府直営の場合もあれば、民間にアウトソーシング(英国の場合はBT)している場合もある。】に接続され、PSAPが適切な救助機関に手配してくれる。番号が3つもあること自体が役所による縦割りの弊害であるが、それに加えて、その番号のあとに県警の番号などを付加させるというのはとんでもない行為ではなかろうか?

我が国でもPSAPのような全ての緊急事態に対応してくれるコールセンターが必要であろう。このようなものがあればPLBや衛星緊急通報にも柔軟に対応することができると思われる。

 

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