準備評価

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準備評価システムの導入について

1 準備評価基準の必要性

危機管理を実施する際、最も困難なのが、そのマネジメントシステムの有効性が実際に災害や事件が発生するまで確認できないことにある。

「リスク」は、前述のように発生確率と結果の積として定義できるが、これまでに経験のない災害等のリスクの場合、その発生確率の推定さえ困難である。

そこで米国などでは、標準化された指標を設置し、相対的に組織の危機管理の良し悪しを判断する準備体制評価という手法が開発され、いくつかの連邦政府機関で実施されている。

ここでは、米国の連邦非常事態管理庁(FEMA)が開発したCAR(Capability Assessment for Readiness)と米国沿岸警備隊(USCG)のRMS(Readiness Management System)について検討してみることとしたい。

2 CAR(Capability Assessment for Readiness)

CAR[1]は、1996年に上院がFEMAに対して各州[2]の防災準備体制を評価する基準を作成するよう要請したことを受けて制定されたもので、現在のところ自己診断のための参考基準であるが、近い将来、連邦法レベル(NFPA1600)[3]で法制化し、強制化される予定である。

CARは、次の13の主要素(EMFs[4])からなる。

EMF#1  法律と権限(Laws and Authority)

EMF#2  危険要素の特定と危険評価(Hazard Identification and Risk Assessment)

EMF#3  危険要素の削減(Hazard Mitigation)

EMF#4  資源管理(Resource Management)

EMF#5  計画(Planning)

EMF#6  命令、監督、調整(Direction, Control, and Coordination)

EMF#7  通信と警報(Communication and Warning)

EMF#8  運用と手続き(Operation and Procedure)

EMF#9  兵站と施設(Logistics and Facilities)

EMF#10     訓練(Training)

EMF#11     演習、評価、改善活動(Exercises, Evaluations, and Corrective Actions)

EMF#12     危機の伝達、大衆教育、情報(Crisis Communication, Public Education, and Information)

EMF#13     財務と監督(Finance and Administration)

上記の項目は、さらに5~10個の小項目にそれぞれ分かれ、それぞれ5段階(1~5点)評価で自己評価していくシステムである。詳細次のとおり。

EMF #1    法律と権限(Laws and Authority

この項目の下では、州の法律で非常事態管理の責任がどこにあるかが明確にされているか、避難命令の発令権限が誰にあるのか、知事に万が一の事態があった場合の権限の継承順位が明らかになっているか、市や郡といった地域的なレベルで独自な非常事態管理システム(建築基準等を含む)の構築を許しているか否か(許している方が良い)、環境保護法の基準を州が満たしているか否か、州法が政令や地域独自の法令によって自治体等の地域が独自の防災基準を制定することを許しているか否か(許している方が良い)、人権保護法を州が遵守しているか、連邦ダム建設安全プログラムに基づいた州法を制定しているか否か、連邦非常事態計画及び情報公開法を州が遵守しているか、連邦歴史遺産保護法を州が遵守しているか、州が信託基金を設立しているか、が評価項目であり、2000年度のEMF#1の全米平均得点は、「4.1」である。

EMF #2    危険要素の特定と危険評価(Hazard Identification and Risk Assessment

この項目の下では、州が自然災害・科学技術災害・人為的災害に関する危険要素の特定と評価をしているか、特定された危険要素に対する防護のレベルが十分か否かの評価をしているか、が評価項目であり、2000年度のEMF#2の全米平均得点は、「3.16」である。

EMF #3    危険要素の削減(Hazard Mitigation

この項目の下では、連邦ダム建設安全プログラムを州が実施しているか、連邦危険要素削減プログラムを州が実施しているか、が評価項目であり、2000年度のEMF#3の全米平均得点は「3.81」である。

EMF #4    資源管理(Resource Management

この項目の下では、非常事態の際に連邦政府機関がどんな能力を提供できるかについて州が十分な知識を有しているか否か、州非常事態管理庁が任務遂行のための十分な人材(常任スタッフ)を有しているか、州非常事態管理庁が人材(非常勤スタッフを含む)の研修訓練を実施しているか、州非常事態計画に関係機関の活動の調整方法が明記されているか、非常事態の際に活用できる資源リストが作成されかつ最新の状態を維持しているか、隣接国・民間企業等と相互協力協定を結んでいるか、非常事態の際に支援に駆けつけてくる資源のための待機所(Staging Area)が各所に設定されているか、大量破壊兵器(WMD)によるテロ事案に対応するための資機材を購入しているか、が評価項目であり、2000年度のEMF#4の全米平均得点は「3.29」である。

EMF #5    計画(Planning

この項目の下では、総合的な危険削減計画が制定されているか、州ダム建設安全計画プログラムに事故時の計画が含まれているか、非常事態運用計画、警報発令計画、通信計画、広報計画、人的資源運用計画、避難計画、医療計画、避難施設設置計画、軍隊支援要請計画、ボランティア活用計画、大量破壊兵器(WMD)対応計画、法令執行計画、防火計画、捜索救助計画、動物管理計画、非常用食料等配布計画、輸送計画、エネルギー提供計画、有害物質対応計画、があるか等が評価項目であり、2000年度のEMF#5の全米平均得点は「3.56」である。

EMF #6    命令、監督、調整(Direction, Control, and Coordination

この項目の下では、非常事態運用センター(EOC)の運用手順が制定されかつ試験されているか、職員へのICS研修は十分か、州非常事態管理庁と他の州政府機関との調整手続きが確立されているか、隣接州や隣接国・ボランティア組織等との調整手続きが確立されているか、FEMA等の連邦政府機関との調整手続きが確立されているか、が評価項目であり、2000年度のEMF#6全米平均得点は「3.79」である。

EMF #7    通信と警報(Communication and Warning

この項目の下では、通信システムが設置されているか、職員が十分ICS手順を習得しているか、衛星・無線・移動体等によるバックアップ通信システムがあるか、信頼性の高い警報発令システムを有しているか、が評価項目であり、2000年度のEMF#7全米平均得点は「3.98」である。

EMF #8    運用と手続き(Operation and Procedure

この項目の下では、損害評価の手順が確立されているか、職員が関連法令を熟知しているか、他の州や連邦政府機関等との調整手順が確立されているか、軍隊支援要請手順が確立されているか、法令執行手順が確立されているか、輸送計画があるか、消火計画があるか、捜索救助手順が確立されているか、危険物対処手順が確立されているか、ボランティアとの調整手順が確立されているか、非常時エネルギー供給手順が確立されているか、WMD対応手順が確立されているか、等が評価項目であり、2000年度のEMF#7全米平均得点は「3.55」である。

EMF #9    兵站と施設(Logistics and Facilities

この項目の下では、非常事態運用センター(EOC)(バックアップ施設を含む)が設置され必要な機能が備わっているか、災害復旧センター(DRC)設置のための手順や人材が確立されているか、州政府機能を万一の際移動する手順や施設があるか、兵站計画があるか、が評価項目であり、2000年度のEMF#9全米平均得点は「3.18」である。

EMF #10  訓練(Training

この項目の下では、2年に1度研修計画の見直しをしているか否か、非常事態管理研修コースが提供されているか、研修コースは規定のモデルを使用しているか、研修コースの開発に規定のシステマチックな手法を取り入れているか、研修コースの提供・維持能力を有しているか、研修コースの評価能力を有しているか、が評価項目であり、2000年度のEMF#10全米平均得点は「3.74」である。

EMF #11  演習、評価、改善活動(Exercises, Evaluations, and Corrective Actions

この項目の下では、非常事態管理訓練プログラムが確立されているか、非常事態運用計画に従った訓練を実施しているか、多年度に渡る訓練計画が組まれているか、訓練は関連規則に従ったものであるか、テロ対応訓練を実施しているか、訓練には評価システムが備わっているか、訓練の改善システムは備わっているか、が評価項目であり、2000年度のEMF#11全米平均得点は「3.56」である。

EMF #12  危機の伝達、大衆教育、情報(Crisis Communication, Public Education, and Information

この項目の下では、一般大衆に対する準備教育プログラムがあるか、非常事態の際の大衆への情報の提供手順が確立されているか、合同広報センターの設置のための手順が備わっているか、が評価項目であり、2000年度のEMF#12全米平均得点は「3.50」である。

EMF #13  財務と監督(Finance and Administration

この項目の下では、州が毎年の評価結果に基づき戦略計画を策定しているか否か、FEMAの補助金は戦略計画に従って使用されているか、FEMA補助金供与政策に関する十分な知識を州政府職員が有しているかまたその政策を遵守しているか、非常事態の際の保障や費用回収計画を管理するためのプログラムを有しているか、非常事態の際の費用の記録システムが備わっているか、が評価項目であり、2000年度のEMF#13全米平均得点は「3.87」である。

このようにCARは、自己点検のための一種のチェックリストのようなものになっているが、内容は非常に細かくなっており、問題の発見や将来の戦略計画の策定には極めて有効なものになっている。なお、上記のCARは州政府を対象にしたものであるが、FEMAでは内容を若干変更し質問文の主語を「地方政府」(市・郡等)にしたもの(Local CAR)も開発し、地方政府に提供している。

3 RMS(Readiness Management System)

米国沿岸警備隊(USCG)も多くの船舶海難や重油流出事故等への対応が求められており、FEMAと同じ動機で準備体制の評価システムの構築が進められた。USCGでは、FEMAとは異なり、次の6つを評価基準に置いている。

・ Poeple(人材)

・ Training(訓練)

・ Equipment(資機材)

・ Supply(消耗品)

・ Infrastructure(施設)

・ Information(情報)

各項目はそれぞれ再分化された項目からなっているが、USCGのイントラネット上に構築されたデータウェアハウスによって、USCG内の各種データベースから自動的に上記の情報を収集し、瞬時にしてその評価結果をイントラネット上に表示する。評価結果は、5段階(緑(準備よし)、黄色(部分的に準備よし)、赤(準備不良)、青(過剰準備状態)、グレー(評価不可能))で示される。

なお、当然であるが、無限大に準備体制を高めればよいというものでもない。小さな投入で最大の効果を得られるよう、効率を高める必要がある。この点をUSCGでは、図4-1上の「Point of Management Effectiveness」として表現し、できる限り右に寄せるよう勧告している。

図 4-1 結果-リスク-準備-資源の関係


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