危機管理の定義

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危機管理をひとつのマネジメント・システムとして捉えていくためには、まず、最初に危機管理というマネジメント・システムに含まれる範囲、言い換えれば、危機管理の定義を明確にする必要があるが、実際のところ、明確に「危機管理」を定義した法律があるわけでもなく、世界的に見ても、極めて曖昧な用語になっている。

類似の意義を持った用語も多数存在する。米国には、日本で言う「危機管理」にほぼ相当する用語に、「クライシス・マネジメント(Crisis Management)」「コンシクエンス・マネジメント(Consequence Management)」「エマージェンシー・マネジメント(Emergency Management)」「リスク・マネジメント(Risk Management)」等がある。

米国政府国内テロ対策計画[1] (CONPLAN)は、クライシス・マネジメント[2]を「テロ行為を予測・予防・解決するために必要な資源を適切に配分すること」とし、コンシクエンス・マネジメントを「被害に遭った政府機関・企業・個人等に緊急支援を実施すること」と定義している。また、エマージェンシー・マネジメントの意義は、連邦非常事態管理庁(Federal Emergency Management Agency: FEMA)の設置目的に「災害に対する計画や対応、災害からの回復、災害の緩和を実施すること」[3]とされていることから推定できるが、実際には、エマージェンシー・マネジメントは、コンシクエンス・マネジメントとほぼ同義として使用されている。

では、リスク・マネジメントとは何か。リスク(Risk)は、最も単純化すると、発生確率(Probability)と結果(Consequence)の積「R = P × C」で定義される[4]。言い換えれば、好ましくない結果の期待値である。このリスクを適切に管理することがリスク・マネジメントである。そして、発生確率(P)に働きかける活動を「予防(Prevention)」と呼び、結果(C)に働きかける活動を「準備(Preparedness)」[5]「対応(Response)」[6]「復旧(Recovery)」[7]「減災(Mitigation)」[8]等と呼ぶ。

このようにリスクを定義すると、上述のクライシス・マネジメント、コンシクエンス・マネジメントは、リスク・マネジメントの特殊な分野だということが判る。つまり、クライシス・マネジメントは、戦争・テロ・産業災害等重大な結果を招く恐れがあるリスクに対して主として発生確率(P)に働きかけ予防に努める作業、コンシクエンス・マネジメントは、自然災害等の完全に予防することが不可能なリスクに対し主として結果(C)に働きかけ好ましくない結果の低減を図る作業と言うことになる。これらを整理すると図1-1のようになる。

日本国内の文献では、佐々淳行が、危機を「生命・財産や組織の名誉・存続に関わる重大事件・事故」[9]と定義し、これを適切に乗り切るための活動を危機管理として、多くの書物で類似の意味合いが使われている。しかしながら、これは、米国でいうクライシス・マネジメントとコンシクエンス・マネジメントの双方を含む意味合いになっている場合が多い。

また、リスク・マネジメントのJIS規格である「リスク・マネジメント・システム構築のための指針」(JIS Q2001)では、「緊急事態」として「組織及び関係者の資産、活動又は人命が危機にさらされ、組織の経営を深刻な事態に至らしめるおそれがあり、緊急の行動をとる必要があると判断される事態」という定義がなされている。

この他にも、自然災害をリスク・マネジメント、人的要因による災害をクライシス・マネジメントと呼ぶ説(アイアン・ミトロフ)[10]等、実に多様な定義がなされているが、本研究では、JIS規格に定義されている「緊急事態」に相当するものを適切に管理するための作業を基本的に「危機管理」と呼ぶことし、米国で言うコンシクエンス・マネジメントに相当する部分について中心に議論することとする。


[1] United States Government Interagency Domestic Terrorism Concept of Operation Plan

[2] クライシスマネジメントは、対応を誤ると組織の存続事態が危機にさらされるような事案への対処を指しており、テロ対策の他、一般的に民間企業の経営危機対策でよく使われる単語であり、民間企業ではそのために作成する計画をBusiness Continuity Planと読んでいる。(最近はContingency Planとは言わない。)

[4] Stan Kaplan[1997]

[5] 準備=研修や訓練を実施し、各種資機材・体制を整えることで災害に備える活動。

[6] 対応=災害が発生した時に、迅速に捜索救助活動を実施すると同時に、災害の拡大を防止し、被害を最小限に抑える活動。

[7] 復旧=対応活動が終了した後、平常時の活動に迅速に復帰するために行う活動。

[8] 減災=発生した災害を教訓に次回同様の災害が発生した場合にその被害を最小限に押させるための防護策をとる活動。例:危険要素の特定、建築基準・構造基準等の設定、土地利用計画、資金援助による動機付け、保険等

[9] 佐々淳行「1999」、2ページ

[10] アイアン・ミトロフ「2001」、21ページ

(参考文献リスト)

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