ガリレオSAR(捜索救助)サービスが正式に始動

The Galileo Search And Rescue (SAR) service, made possible by the Galileo satellite constellation, is now active. Galileo SAR is Europe’s contribution to the COSPAS-SARSAT network, a distress…

情報源: Galileo search-and-rescue service officially launched : GPS World

 

欧州が打上げたガリレオ衛星による捜索救助サービスが4月6日に正式に始まった。ガリレオ衛星システムとは、欧州版のGPSのようなものであり、物体の緯度経度を高精度で測位するための衛星システムである。GPSは車や携帯でも使用されているので多くの人が知っていると思うが、実はGPS以外にも欧州のガリレオの他、ロシアのグローナス、中国のコンパスなどがあり、中途半端ではあるが日本の準天頂衛星システムもこれに類するものである(これらは総称して”GNSS”(Global Navigation Satellite Systems)と呼ばれる。)。

ガリレオのSARペイロード(遭難アラートを処理する装置)は、遭難した船舶や航空機から発射される406MHzの遭難アラートを中継し、地球上に数多く設置されたMEOLUTと呼ばれる地上受信局でそれを受信し、処理して遭難位置を算出する。このようなシステムは、もう、30年も前からあったが、それは、アメリカ、カナダ、フランス、ロシアが打上げた低軌道衛星(その多くは気象衛星に便乗したもの)で処理し、電波のドップラー効果を計算して位置を計算するものだった。しかし、地球を回っている低軌道衛星は、5〜6機しかないため、衛星が回ってくるまでに時間がかかり、最悪の場合は、遭難船が406MHzの電波を出しても、1時間半くらい衛星が回ってこないということもあった。

その点、ガリレオ衛星システムは、地上から2万キロ位の高さを回る中軌道衛星30機程度で構成され、地球上のどこで遭難しても、衛星が3つ以上見えるため、即座に遭難位置が計算される。

ガリレオの他、米国のGPSやロシアのグローナスにも同様のSARペイロードが搭載されるのだが、正式に運用開始を宣言したのはガリレオが最初ということになる。GPSやグローナスも中軌道衛星なので、これらは総称して中軌道衛星捜索救助システム(MEOSAR)と呼ばれている。

ガリレオのSARペイロードには、GPSやグローナスにはない「リターンリンク」とよばれる機能も付加されている。伝統的な406MHzビーコンは、遭難アラートを送信するだけの片方向通信機能しかなかったが、ガリレオリターンリンク機能を搭載したビーコンであれば、陸上の救助機関側からビーコン側に対して短いメッセージを送ることができるため、これまでにはなかった新しい機能である。

このMEOSARシステムは、船舶や航空機の遭難位置を高精度かつ迅速に測定できるものであり、非常に有効である。

なお、406MHzの電波を発射するビーコンは、船舶用のものはEPIRB(非常用位置指示無線標識)、航空機用のものはELT(航空機用救命無線機)と呼ばれ、もう30年以上も前から使われてきた。EPIRBやELTは沈没や墜落と同時に自動的に電波が発射される機能があるのだが、これら以外にも携帯電話程度に小型化され、ボタンを押すだけで遭難アラートを送信することができるPLB(携帯型救命無線機)と呼ばれるものもある。これがあれば、山の中での遭難など、陸上遭難でも非常に有効なのだが、実は、日本では、様々な制度不備のため陸上では使用できない。また、406MHzというUHFの電波なら、雪崩に巻き込まれたような場合でもその埋没深度が浅ければ、雪を通り抜けて、電波が衛星まで届く可能性もゼロではない(実験したことがないので正確なところはわからないが)。MEOSAR衛星から中継された406MHzの電波を地上の複数のMEOLUTで処理すれば数メートルくらいの誤差のピンポイント位置を出すことができる。

先日、紹介した雪崩ビーコンなるものは、457kHzという非常に波長の長い長波が使用されており、雪の中でも電波が通るという点はメリットなのだが、直進性の低い電波であるため、使い慣れないと埋没者の位置を確定できない。しかし、埋没と同時に406MHz波を送信することができるPLBのようなものが開発されれば雪崩捜索救助には役に立つかな、と一瞬思ったが、そのためには実験や開発するためのお金が必要だ。

 

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ビーコン(発信機)装着の義務付け

一昨日、栃木の那須で発生した雪崩事故。高校生等8人が犠牲になった。事実関係も少しづつ明らかになってきており、参加者全員が雪崩に埋まったときにその埋没位置を電波を発信し、仲間の受信機でその電波を受信すれば埋没位置を迅速に特定できる「雪崩ビーコン」(注)と呼ばれる電波の送受信機を全員が装着していなかったこと、雪崩が発生したのは朝8時半頃だったが、警察に110番通報があったのは、その一時間後の9時半頃だったこと、などが相次いで報道されている(3月29日付日経新聞社会面等)。

(注:電波の送信機にもなるし、受信機にもなるので、海外ではAvalanche Trascieverと呼ばれることもある。ビーコンとは電波の発信専用機を意味するので、正確には「雪崩トランシーバー」と呼ぶべきかもしれないが、日本では慣習的に「雪崩ビーコン」という名称で定着している。なお、雪崩ビーコンは、ETSI EN300 718として、欧州電気通信標準化機構(ETSI)にて国際的に標準化されている。)

まず、110番通報が雪崩発生後の1時間後だったという点だが、これでは遅過ぎる。30分も埋まっていれば生存確率は急速に低下するので、一刻も早く掘り出し救助する必要があり、発生後、自分達で仲間の救助を実施するのと同時に、山岳救助隊への連絡も直ちに行って支援を仰ぐべきである。本日の日経新聞では引率の先生が携帯電話で110番通報したとあるが、他の報道では、「9時20分ごろ 那須町の旅館から「スキー場で雪崩が発生し、高校生約50人と連絡が取れない」と110番通報」としているものもあり、どちらが事実かはわからない。山の中は多くの場合、携帯電話の電波が届かないので、後者の情報が正しいようにも思えるし、電波が届かないので先生が電波の届くところまで降りていって一時間後に通報したのかもしれない(注:29日お昼のNHKニュースによると現場では電波が届かなかったので先生の中の1人が麓の旅館まで下りて行って110番通報したというのが事実のようだ。更に登山班と麓の旅館に残っているコーチとの連絡用に無戦機も所持していたとの発表が記者会見であったが、旅館側のコーチが無線機を常時ワッチしていたわけではないことも判明している。)。現場に緊急時の通報手段が全くないというのは大変大きな問題であり、衛星携帯電話の装備などによる緊急通報手段の確保などを含め、迅速な緊急通報の確保という点で何らかの改善策を考えるべきである。

他方の雪崩ビーコンの装着がなかった点だが、これは、本格的に冬山に登る人以外にはあまり知られていないこともあり、幅広い装着を促進するためには、法的に装備を義務化するような措置が必要かもしれない。多くの人はリスクを過小評価し、「自分は大丈夫だ、自分は雪崩の起きるようなところには行かない」などと思いがち。今回も恐らくそうだったろう(実際に引率の先生方の記者会見を聞いていると「絶対に大丈夫だと思った。」などと発言していた。世の中に絶対安全などというものは存在しない。)。このような場合には公共的な安全確保という観点から、法令による装備義務付けなどの強制措置も必要になる。

例えば、車のシートベルト装着だって、本人の自己責任ということにしておくと、シートベルトの装着率が低くなり、多くの犠牲者が出た。そこで、最近の道路交通法では、運転者に対して、同乗者にシートベルトを着用させる義務を科した。他人の車に乗ってシートベルトをしなかった場合、しなかった本人は何も処分を受けないが、運転者が減点処分を受ける。同様の手法を雪崩ビーコンにも適用し、雪山での研修や登山の場合、その研修主催者や山岳ガイドなど対して、お客さんに雪崩ビーコンを装備させる義務を科し、それを怠った場合には、若干の過料を科す、などの制度を条例で作ることもできるだろう。ただし、スキー場でのスキー客にまでビーコンの装着を求めるのは少し行き過ぎということにもなるので、どのような場所に入る場合に装着が必要で、どのような場合は必要ないのかという細かな線引きが必要になり、また、どのようなビーコンならOKなのかも明確にする必要がある。従って、このような制度を作るのであれば、全国一律の法律という手段ではなく、各県ごとに状況が異なるので、各県が定める条例という手段が最も適切であるように思う。

雪崩ビーコンではないが、富山県は「ヤマタン」という富山県独自の小型ビーコンを立山に入山する者に対して無償で貸し出し、装着することを義務付けている。立山などのように入山ゲートウェイが限られる場合はこのような方法もあるが、ゲートウェイを絞り込めない地域ではこの方法は難しい。

条例などのような強制力を伴う公法によらなくても、各種の山岳団体が共同でガイドラインを作り、どのような地域に行く場合に雪崩ビーコンの装着が必要なのかを明確化し、指導ベースではあるが装着を強く推奨するという方法もあるだろう。

いずれにせよ、今回の事故は最初の緊急通報が即座に行われ、かつ、雪の下に埋まった生徒がビーコンを装着してその埋没地点を電波で発信し、迅速に掘り出し救助が行われていれば、もう少し犠牲者の数は少なかったのではなかろうか。船舶や航空機には様々なビーコンの搭載が国際条約で義務付けられているのだが、山岳登山に関してはレクレーションということもあって、制度的なものが今のところ何もない。8名もの犠牲者が出た今回の事故を受けて、制度的に何が出来るのかを考え直すべきである。

ワンウェブ(OneWeb)

ワンウェブとは、648機もの超小型の低軌道衛星(高度1200km)によって全地球をカバーし、地球の隅々にまでインターネットを行き渡らせるという計画を遂行するベンチャー会社である。途上国を中心に全世界人口の54%もの人々がインターネットにアクセスできない環境下にあり、ワンウェブはそこにインターネットを提供するため衛星を打上げるという。ワンウェブには、昨年12月に日本のソフトバンクが出資して筆頭株主となり、先月(2017年2月)にはワンウェブとインテルサット(固定通信用の静止衛星保有数では世界最大の衛星通信事業者)の合併が発表され、ソフトバンクは合併後のインテルサットの39.9%の議決権を有する筆頭株主になるという。

ワンウェブは、今流行りの超小型衛星を使う。超小型衛星は、静止衛星に使われるような大型衛星に比べると製造コストが安い。おまけに、ソフトバンクに出資してもらって、フロリダに衛星を一週間に15機も製造できる製造工場をも独自に作る計画という。これまで、衛星のメーカーと言えばボーイングやロッキード、エアバス、タレス、日本の三菱などごく一部の大企業に限られていたので、衛星の製造分野へも垂直統合的に進出するということだろう。

ワンウェブの低軌道衛星とユーザー端末との間の通信には、Kuバンド(12/14GHz)帯を使い、衛星とゲートウェイ局との間の通信にKaバンド(17-30GHz)を使うらしい。問題はこのKuバンドである。赤道上空36,000kmの多くの静止衛星がすでに使用しているため、この真下を1200mの高さで飛ぶ低軌道衛星は、静止衛星からのKuバンドの電波に干渉を与えることになる。しかし、ワンウェブは、静止衛星と同じ方向からは電波を出さない「Progressive Pitching」(特許申請中)という手法でこの問題を乗り切るらしい。また、全世界で特定のKuバンドスペクトラムを使うということになると世界中で周波数調整をしなければならず、非常に困難だが、彼らは、10年位前に頓挫した「テレデシック」という企業からこの権利を買収して確保した。テレデシックは、膨大な数の低軌道衛星で全地球をカバーするという計画で、マイクロソフトのビル・ゲイツなどが創始者として始まったものだが、多くの低軌道衛星計画と同様に破綻してしまった。考えてみれば、ワンウェブは、このテレデシックの焼き直し版とも言えるのかもしれない。

KuバンドやKaバンドの周波数は、かなり降雨減衰がある。衛星放送の電波が雨や雪のときによく止まるのと同じようにこのサービスも豪雨地帯や豪雪地帯ではかなり電波が減衰し、届きにくいことがあるはず。今でも静止衛星からのKuバンドやKaバンドの電波によるVSATサービスというのはあるが、船舶などでは、Lバンドインマルサットサービスなどと併用し、Kuの電波が切れた時にはLバンドに切り替わるようになっている。ワンウェブはこの点をどう考えているのだろうか。

Kaバンドが衛星と地上のゲートウェイ局との間の通信に使われるらしいが、私は当初、Kaバンドと聞き、イリジウムで行われているのと同様な衛星間通信用としてKaバンドが使われるのだろうと思っていた。しかし、ワンウェブがITUでプレゼンした際の資料をよく読むとKaバンドはゲートウェイ局と衛星との間の通信用と書かれている。ということは、このワンウェブの衛星システムは、既存のグローバルスター衛星システムと同様のベントパイプ衛星システムということになり、衛星は地上のゲートウェイ局とユーザー端末との間を周波数を変換して、中継するだけのものということになる。グローバルスターシステムのカバーエリア図を見ればわかるとおり、衛星間通信を行わないシステムの場合は全地球をカバーするということができない。どうしても、ゲートウェイを設置できない海のど真ん中では通信できないことになるし、シベリアの奥地などのように陸地でも誰もゲートウェイを設置しないだろうと思われる地域では通信できない。イリジウムはKaバンドで衛星間通信が行われているので、地上のゲートウェイ局は地球上に一つあれば全地球をカバーできる。しかし、イリジウムのような衛星間通信を行うシステムの衛星は複雑になり、衛星の製造コストが高くなる。イリジウムが第二世代衛星を未だに打上げられないのもこの衛星コストのためである。ワンウェブの衛星が、単に衛星ひとつで地上と地上の通信を周波数変換して中継するだけのベントパイプ衛星なら、確かに衛星の製造コストはそんなにかからないが、衛星間通信をしないと全地球をくまなくカバーするということはできないので、このシステムは、船舶や航空機用としては、あまり望ましいものではない。更に、Kaバンドが地上との間に使用されているということになるとKaはKu以上に降雨減衰の影響を鋭く受けるので、雨や雪が激しい時には特定の地域の通信が途切れるということが発生するということになる。

このワンウェブのCEOであるグレッグ・ワイラーという人、O3bという地上8000kmの中軌道衛星で途上国にインターネットを提供するというビジネスを2007年に設立し、2012年にワンウェブを設立するまでそれに携わっていた。O3bは、Other 3 billion(忘れられた30億の人々)という意味で、目的はワンウェブと同じように地球上の隅々にまでインターネットを行き渡らせるというものである。O3bとワンウェブの違いは、衛星の高度や衛星の軌道、通信周波数、端末の大きさ、カバーエリアなどである。O3bの衛星は全地球をカバーする軌道を飛んでいないため、赤道下の国々にしかサービスが提供されない。なお、O3bは、すでに十数機もの衛星が打上げ済。なぜ、このワイラーという人は、自分で始めたO3bを途中で放り出し、ワンウェブを設立したのかよくわからない。O3bではカバーエリアが狭いということが理由だろうとの意見もあったが、ワンウェブも上記の通り衛星間通信なしでは必ずしも全地球をカバーできるものにはならないのであまり変わりはないはずである。衛星高度が低いので通信の遅延が少いというメリットは確かにあるが、データ通信を行っている限り、1秒前後の遅れなど誰も気にならない。O3bもワンウェブも、途上国の通信事業者をターゲットにしたBtoB型ビジネスモデルであり、それ以外は、あまり大きな違いはないようにも見える。もし、様々な理由で創始者たるワイラーという人がギブアップしたということであれば、このO3bはもうオダブツということだろうか。

端末は、フェーズドアレーアンテナを使用した小型端末で、WiFiや3G/LTEなどの電波によって、スマホやパソコンなどと接続する。200メートルくらいしか飛ばない携帯電話の基地局とも言える。この他、船舶向けの端末や既存の携帯電話のタワーに設置するための装置なども用意するらしい。

 

アイデアや構想は、非常におもしろいように見えるが、これらは決して珍しいものではなく、既存のものの焼き直しであり、何らかの形で似たようなものが存在する。

そして、最大の問題は、ビジネスとして成り立つのか、という点である。すでに掲げたワンウェブの前身とも言うべきテレデシックも途中で頓挫しているし、ひょっとするとO3bもすでにズッコケそうなのかもしれない。低軌道衛星システムの本家本元と言えば、イリジウム、グローバルスター、オーブコムなどだが、これらはいずれも、一度や二度は、チャプター・イレブン倒産を経験しているのが普通である。倒産したからと言って衛星がなくなるわけではないので、オーナーが替わったり、政府に救われたりしながら、何とか細々と継続されているものが多いが、低軌道衛星サービスは、静止衛星サービスと比べ、多くの衛星が必要になり、衛星コストがかかりすぎるため、大体失敗するのがこれまでは普通であった。

ワンウェブは、この最大のネックだった、衛星コストを超小型衛星を安く大量生産することで解決する意図のようだ。しかし、衛星がいくら安くなったといっても、648機もの衛星が必要ということになるとその費用はバカにならないだろう。イリジウムも、かなり小型衛星で、たった66機必要なのだが、それでもコケている。

ワンウェブは、インテルサットとの合併、ソフトバンクによる出資などによって、衛星の打上げに必要な膨大な資金は、なんとか確保できるのかもしれない。問題は、衛星が無事全部上がったとして、ほんとにそれが、ビジネスとして成り立っていくかであろう。648個の衛星を継続的に維持していくにはかなりコストがかかるはず。

ワンウェブのみならず、スペースXなども似たような計画を有しており、O3bも含めると新たな低軌道衛星による高速インターネットサービスにも、複数のプレーヤーが存在することになる。既存のイリジウムやグローバルスターのようなサービスや静止衛星によるサービスも加えると競争は更に激しいものになる。

ところで、ソフトバンクは、6年前の3・11以降、防災用との観点から衛星通信にかなり熱心になり、スラヤと提携してみたり、Sバンドを使った独自衛星の打上げを画策してみたりしていたようだが、この独自衛星というプランは消え、ワンウェブにシフトしていくということだろうか。

いずれにせよ、ソフトバンクグループのお手並み拝見である。

(注:6月1日付けの報道によると、どうもこのワンウェブとインテルサットとの合併話は破談になったようです。)

 

 

 

 

通常の弾道ミサイルなら朝鮮半島から日本までは数分で到達

3月6日、北朝鮮が再びミサイルの発射実験を実施し、4発中3発が日本のEEZ内海域に落下した。マレーシアでは在マレーシアの北朝鮮大使が国外退去処分とされ、国交断然も視野に入っているようだし、最近特に北朝鮮に対する国際世論が極限状況にまで悪化している中での発射である。もう、北朝鮮には何を言っても無駄だろう。こうなってくると、米軍が北朝鮮へ何らかの軍事オプションを選択する可能性が非常に高くなってくる。そう感じているのは私だけではないだろう。北がVXなどのような化学兵器を保有しているということになれば米軍が軍事介入する理由にはなる。5〜6年前、シリアが化学兵器を保有していることが判明した時、オバマ大統領は「アサドは一線を超えた!」などと言って軍事介入をする意思を固めたが、ロシアがシリアに化学兵器の廃棄を確約させ、あの時は収まった。しかし、今回は北が化学兵器を放棄するとは考えられないし、おまけに核兵器まで保有しようとしている。

そもそも、1994年頃、クリントン政権時代にも米軍が北朝鮮を限定空爆する直前の状態にまで緊張したことがあった。北朝鮮がNPTを遵守せず、極秘に核兵器開発を行っていることが明らかになったからである。このときは、韓国の金泳三大統領(当時)が反対し、結局中止になったが、その金元大統領は、中止要請したことを後日後悔しているとも伝えられている(金泳三元大統領、米国の北朝鮮爆撃計画阻止を後悔…ウィキリークス)。

恐らく、これまでにも度々、米国防省は大統領に対して、軍事的選択肢を提示してきただろうし、トランプのテーブルの上にもそれはのっているだろう。「世界の警察官ややらない」などと主張してきたトランプだが、自己顕示欲が非常に強い彼なら、これを選択し、「これまでのどの大統領も解決できなかった北朝鮮の核問題を俺が力で解決したんだ!」と主張したいだろう。それにより、北朝鮮からの攻撃や押し寄せる難民などを回避したい韓国や中国は、簡単には同意できないだろうが、外国の立場など全く考慮するつもりがないトランプならそれを無視してでも実施してしまう可能性が高い。

「大量破壊兵器を保有している」との理由でイラクへの軍事侵攻を決定した米国である。結局のところ、イラクから大量破壊兵器は発見されなかったのだが、アメリカにとっては事実かどうかは関係なく大義名分があればよい。戦争は米国にとって公共事業のようなもの。日本で必要もない道路をドンドン作るのと同様に、米国は戦争を起こすことによって関連する産業にお金が流れるようにしたい。今回は、特に、ウソを「Alternative Factだ」などと発表し、公然と事実を曲げることを厭わないトランプ政権であり、この政権は公共事業に多額の税金を使うことに非常に積極的でもある。朝鮮半島で最悪の事態が発生するリスクが非常に高まっている(参考:「北朝鮮の核問題、トランプ政権下で最悪の事態も」ロイター)。

もし、そのような事態になった場合、日本も北朝鮮から攻撃される可能性があるが、我々はどうすべきか。J-Alert(全国瞬時警報システム)などは、全く役に立たない。政府がいくら「北朝鮮がミサイルを発射しました!」とSUPERBIRD衛星を経由して各自治体の防災無線で空襲警報を出したとしても、我々にできることなど何もない。一般的な弾道ミサイルの速度は、約28,000Km/hである。ジャンボジェットの速度は約900Km/h。従ってミサイルの速度はジェット機の速度の約30倍。東京とソウルの間をジェット機で飛べば2時間位であるので、単純化して、この2時間の30分の1の時間で日本に到達すると仮定するとその時間は、たったの4分。これでは警報など出されても何もできることはないだろう。地震のように机の下の隠れたとしても、まあ、ほとんど意味のない世界である。

また、仮に逃げる時間が十分あったとしても、各家庭にシェルターがあるわけでもなく、どこに落ちるかピンポイントで示されるわけでもないので、どこかに逃げても意味がない。避難所となっている地域の小学校の体育館と今自分がいる場所と比較してどちらかが安全と言えるような事態ではない。屋内退避指示が出されることもあるようだが、何故に屋内の方が屋外よりも安全と言えるのか。屋内にいれば家の下敷きになるリスクがあるが、屋外にいればそのリスクはない。いずれにせよ、ミサイルの場合、どこにいれば確率的により安全といえるような具体的な証拠や論理が全くない。

ただし、救助機関がJ-Alertによる警報が出された時に直ちに非常体制に入ることができるというメリットは多少ある。しかし、ミサイルは数分で北朝鮮から日本に到達するので、その数分間の間に何が準備できるのかと考えれば、恐らく何もできない。そもそも、これまでに何度も北朝鮮は日本海に向けてミサイルを発射したが、その際、それを探知し、J-Alertで国民に対して空襲警報が出されたことはあるか。日本海に落ちるか、日本の陸上に落ちるかを識別できるのか。日本海で落ちそうもないときに限って警報を出すなどという芸当ができるのか。恐らく、そんなことはできないし、仮にできたとしても警報が出てから着弾までの時間が数分では何もできない。

防衛省のミサイル防衛システムが機能することを祈るばかりだが、結局のところ、地域のレベルでできることは、事後的な対応(Response)によって、被害を最小限にすることだけである。その際に必要となるのは、災害時におけるインシデントマネジメントと全く同じであり、皆で協力し、優先順位を決め、迅速に対応するしかない。

 

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指揮統制通信システム

以前の投稿にも書いたが、災害等のインシデントが発生した場合に最低限確保すべき通信手段は音声通話である。東京電力などのようにお金にゆとりのある企業(それも過去の話かもしれないが)であれば東京本社と各原子力発電所の間に衛星で専用回線を設けてテレビ会議で意思決定するということも可能かもしれないが(実際5年前の事故時には東京と福島との間でテレビ会議を行っていたようである。)、一般的な企業ではBCPのためだけに普段は全く使用する見込みのないような専用回線を確保するためだけに高額な費用を払うことなどできないだろう。

しかし、音声ならビデオ信号に比べて占有する帯域も小さくて済み、コスト的にも安い。実際問題として、テレビ会議で相手の顔が見えないと困るなどということがあるのだろうか。緊張している雰囲気も音声だけで十分伝わるし、図面やその他の画像情報が必要なら、メールやFAXで十分だろう。現場の状況を動画で伝えることは「百聞一見にしかず」というメリットはあるが、テレビ会議は会議室などにカメラが固定されているので、現場の生中継ということを目的にしていない。それに災害の状況などは、自前のカメラマンが現場中継しなくても、テレビ局の中継を見ているだけで多くの場合は十分である。実際、20年前の阪神大震災の後、警察、海保、自衛隊などが撮影するヘリテレ(役所のヘリコプターからのテレビ画像)を首相官邸に接続するためのシステムが巨額の税金を投入して構築されたが、これが役に立ったためしはなく、首相官邸は、NHKや民放の現場中継画像を見ているだけである(東日本大震災の時もそうだった)。

ただし、音声通話でも、伝統的な回線交換式の電話だとつながらないことが多くなる。災害時には、通信需要が急増し、みんな一斉に電話をかけるため、電話交換機を守るために電話会社が通話規制してしまうのである。携帯電話のショートメッセージも同様に携帯電話会社の規制を受けるため、相手にメッセージが到達するまでにかなりの時間がかかる。このような通信規制の影響を受けず、比較的つながりやすいのは普通のインターネットである。インタネットはそもそも軍事通信用にアメリカが開発したプロトコル(IP)を使っているので当然災害には強い。

そこで、音声通話を狭帯域でも通るようにIP化する技術を使う。そして、その音声信号も、通常のVoIP電話のように1対1通話に依存するのではなく、1対n人通話ができる無線機のように使うのである。これはRadio over IP(RoIP)と呼ばれる技術であり、欧米の軍隊や警察などでは、既存のPTT(Push-To-Talk)型無線機のアナログ信号をIP化してIPネットワークに乗せ、さらに指令を伝達するためのシステムもIP化して構築している。無線機とIPベースの指揮統制通信システムを組み合わせることが、緊急時のための通信システムとしては最も効果的である。

http://www.jdc.ne.jp/

病院間衛星通信・・・電波法1条は?

総務省は、災害医療や救護活動の非常用通信手段に関するガイドラインを公表した。

情報源: 災害拠点病院に衛星データ通信の確保推奨-総務省、ガイドライン公表 (医療介護CBニュース)

総務省報道資料

災害拠点病院間に衛星通信を導入すること自体は、当然必要だし、これまでにも導入が進められていたはずだが、この総務省の報告書の背後には、一部の日本の衛星事業者の思惑があると考えざるえない面がある。日本に飛来している衛星からの電波には、日本事業者のものと外国事業者のものとがある。外国事業者のサービスは、日本だけでなく、全世界をくまなくカバーし、できるだけ多くの人が利用できるようにしているため顧客ひとりあたりが使用できる通信速度は中速度(1Mbps以下)である。他方、日本事業者のサービスは、日本だけを照らす強いビームを持っているため、高速度(2Mbps以上)の通信が可能である。もっとも使用している電波の周波数帯の違いによる影響もあるのだが、この報告書には「低速-中速の衛星データ通信は「不向き」」などと書かれており、意図的に外国事業者のサービスを排除しようとしているのではないかと考えざる得ない。

災害時には音声通信が重要になることはこの報告書にも書かれているとおりであり、間違いのない事実である。しかし、ひとつの音声通信に必要になる帯域は通常の回線交換方式で30kbps程度であり、IP電話の場合でも最近の技術によるものであれば200kbpsもあれば十分に通る。災害時には音声通信だ、などと言っておきながら、データ通信は高速通信が必要だなどと推奨するのは、矛盾しており、背後にいる事業者の営業思惑があるのではなかろうか。

そもそも、高速データ通信が必要になるのは高画質の動画中継が必要な場合ぐらいである。それ以外には全く必要ない。しかし、災害時に高画質の動画中継など実施しようものなら、電波の帯域がそれだけによって占有されてしまい、他の通信が通らなくなる。災害時に高画質通信を行おうとするのは愚かな行為である。高画質でないと遠隔医療ができないなどという理屈もあるかもしれないが、災害時に遠隔医療などが本気でできると思っているのだろうか。はっきり言ってこれはバカバカしいアイデアである。現場の医師で対応せざる得ないのは明らかだ。通信が必要なのは、現場に不足する資源の支援要請などを行うためである。そのための通信は、音声やテキストメールである。それ以上の帯域を食う通信を実施することは他の人の通信機会を奪うことになり、災害マネジメント全体に対する脅威である。

10年位前、Sバンド衛星放送事業者「モバホ」が倒産間際に総務省で「ナントカ検討会」を開催し、公的な利用を促す報告書を出したのを思い出す。いずれも、困ったときの官頼みなのかもしれない。モバホにしろ、今回の背後にいるかもしれない国内衛星事業者にしろ、最大の間違いはガラパゴスで生き残ろうとしていることである。衛星事業は日本市場だけではやっていけない。市場が小さすぎる。

この検討会に参加している国内衛星事業者には総務省からの天下りが何人かいるのではないだろうか。総務省のOBがいそうにない事業者(外国事業者の代理店等)が検討会に参加すらしていない点にも不公正を感じる。これは、自分たちの天下り先企業を儲けさせなければという意図ともとれる。災害マネジメントに弊害をもたらす可能性すらある内容であり、強制力のないガイドラインと言えども、問題は極めて大きい。

災害時には通信トラフィックが急増するため、本来なら、多くの利用者が限られた帯域の中で効率的に必要な通信ができる技術開発を促進するのが総務省の役目であろう。電波は有限資源であり「電波の公平且つ能率的な利用を確保すること」が電波法の目的であるとその第一条に書かれているところである。「病院の通信は重要なので衛星で専用ネットワークの構築を推奨し、それを支援する」ということならまだ理解できる。しかし、そうではなく、電波の有効利用を促進することがそのミッションである総務省が、災害時に大容量通信をすることを推奨するとは何事か。重要なのは速度ではなく、専用性があるかどうかである。開いた口が塞がらない報告書である。

非常時の通信をファンクショナル・アプローチで考える

第1章 非常事態通信とは何か?

昔アマチュア無線(ハム)などを趣味でやった経験のある人なら無線通信には「遭難通信(SOS)」「緊急通信(XXX)」「安全通信(TTT)」「非常通信(OSO)」(括弧の中はモールス符号による場合の前置信号)などという種類があることを知っている人も多いと思う。これらの通信は、今でも電波法52条に残っている正式な通信である。近年、通信技術は大幅に進歩し、かつてのような中波や短波を使った無線電話や無線電信による通信は大幅に減少し、代わって携帯電話や衛星通信、インターネットなどが当たり前のようになり、大容量通信や高品質の通話が誰でも簡単にできるようになったのは大変望ましいが、あまりにも当たり前になってしまったために、地震や津波等の災害時でもこれらがいつもと同じように使えると思っている人がいる。

しかし、通信容量というものは有限であるので、多くの人が一斉に使えば回線は満杯になるし、携帯電話の基地局や光ファイバー網が地震などで広域に被害を受ければ物理的に通信できなくなる。「遭難通信」「緊急通信」「安全通信」「非常通信」などという分類は、無線通信回線の容量が小さかった時代に通信に優先順位をつけるために国際電気通信連合(ITU)にて決められたものだが、現代においても災害時など通信が集中する時には通信に優先順位をつけることは必要である。

地震や津波等の大災害時の通信は、まさにその全てが電波法による「非常通信」に該当するものであるし、その中でも特に人命救助に関わるものであれば「遭難通信」という最も優先度が高いものになるが、ここではこれらを厳密な意味で使い分けるのではなく、広い意味で、あらゆる緊急事態、非常事態等に対処するための通信を総称して「非常事態通信」と呼び、これをファンクショナル・アプローチによって機能別に分類することによって、その在り方及び望ましいポートフォリオについてを考えてみよう。

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