雪崩捜索救助の基本理念

捜索救助(Search and Rescue(SAR))は、相互主義が基本である。相互主義とは、「私が遭難した時には助けて下さいね。その代わりにあなたが遭難したときには私が助けに行きます。」という考え方であり、国際慣習法として古くから定着しており、船舶遭難時における相互主義などは国際条約や我が国の国内法にも明記されているものである。

「海上にある船舶の船長は、発信源のいかんを問わず海上における遭難者からの信号を受けた場合には、全速力で遭難者の救助に赴かなければならず・・・」(海上人命安全条約附属書第V章第10規則(a))

「船長は、他の船舶又は航空機の遭難を知つたときは、人命の救助に必要な手段を尽さなければならない。但し、自己の指揮する船舶に急迫した危険がある場合及び国土交通省令の定める場合は、この限りでない。」(船員法第14条)

船舶が遭難したときは、遭難信号を発信すれば各国の沿岸警備隊などが救助船を派遣してくれる。しかし、このような公的な救助船が遭難船のすぐ近くにいるということは稀であり、その到着を待っていては沈没してしまうということもあるだろう。そこで、遭難船のすぐ近くをたまたま航行していた船舶が救助に向かうのである。これが俗に「シーマンシップ」と言われる船乗りの精神である。ただし、強力な台風が来ている場合などのように救助に向かうことが自船を著しく危険にさらすという場合もあるだろう。そのような場合にまで無理に救助に向かう必要はない。あくまでも、自船の安全が確保できる範囲で他船の救助に向かう、これが船長に課せられた義務である。そして、沿岸警備隊などの公的な救助船が遭難現場に到着すれば、それまで救助にあたっていた付近航行船舶は、その後の救助作業を公船に一任し、救助の任を解かれて元の業務に復帰することができる。

雪崩事故などの山岳遭難の場合も、この基本理念は同じではないだろうか。海上のように条約や法律にこそ明記はされていないが、相互主義が人類の長い歴史の中で定着している国際慣習であることには変わりはない。

図1は、雪崩埋没時における生存率が時間経過とともにどのくらい下がるかを示したものである(出典:山岳医療情報)。図が示すとおり、雪崩に埋没してから18分でも生存確率は91%ある。しかし、その後、急速に低下する。従って、20分以内に埋没者を掘り出し救助することができるか否かによって、埋没者の生死が大きく左右されることになる。

図1:雪崩埋没時の生存曲線

ある登山パーティーが冬山登山中に雪崩が発生し、前方を登山していた別の登山パーティーが雪崩に巻き込まれるのを目撃したとしよう。この場合、目撃した登山パーティーは、携帯電話で110番通報して救助を要請するだろう。しかし、公的な救助隊が到着するまでには通常1時間以上かかる。それをじっと待っているだけでは救える命も救えない。そこで、目撃した登山パーティーは、自ら救助に向かうとともに、周囲に別のパーティーがいるならば、彼らにも協力を依頼して救助に行かなければならない。ただし、この場合も、二次雪崩の発生のリスクがある場合や十分な装備なしには救助できないような場合にまで救助に行かなればならないということではない。リスク評価を十分に実施し、安全を確保できると判断できる場合に限られるということは言うまでもないことである。

災害救助は、一般的に自助、共助、公助の3段階に分かれるが、一度雪崩に埋まってしまえば埋没者が自分自身で脱出すること、すなわち自助はほとんど不可能である。そこで、共助または公助による必要があるが、山岳遭難などの場合は、警察の救助隊などの公助が到着するまでに時間を要する。このような場合、最も重要になるのは共助、すなわち、遭難者の周辺にいて直ちに救助に向かうことができる人々による救助である。山岳遭難における共助の精神を何と呼ぶのかは知らないが、あらゆる捜索救助の精神は全く同じである。最も近くにいる人が救助する、これが最も早い救助につながり、助かる確率を最も高める。

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那須雪崩事故→安全基準の不在が問題

今年3月の那須雪崩事故の検証委員会報告書(→栃木県HP)を読んでいて感じるのだが、「安全基準が存在しない」という視点が全く抜け落ちている。報告書の冒頭で「責任の追求は目的としない」と書きながら、全体としてはやはり主催者、高体連、講習会役員、講師、引率教員、学校運営責任者、県教育委員会などの責任を具体的に示しながらがそれぞれ悪い、という論調。要するに学校関係者みんなの責任ということにしたいのだろう。検証委員会は裁判所ではないのだから責任の追求などできないのは当然なのだが、誰かの責任にしないと収まらないという世論の風潮に配慮しすぎているように見える。現場任せで無計画とか、マンネリズムといった抽象的な精神論に原因を求め過ぎている。

一般的に責任追及と再発防止とは両立しない。過度に責任を追求しようとすると人々は責任追及を逃れようとウソの証言をするだろう。ウソの証言ばかりになれば事故の根本要因が見えてこないため再発防止が困難になる。この事故も、学校関係者全員の責任追求に終始すれば、事故の再発防止にはつながらない。

ところで、裁判所が刑事や民事で誰かの責任を追求する場合でも、そのためには当然事前に定められた守るべき基準というものが必ず存在する。それは、明文化された法律や政省令ということもあるし、あるいは、判例という過去の事例を基準にしている場合もある。事前に社会的に合意された安全基準無しに「お前が悪い」と言ってしまうのは公平性に欠く。あえて責任を追求するのであれば、冬山登りという危険な行為に対する安全基準を設定してこなかった社会全体の責任である。地方自治体やナントカ省の責任にしたがる世論もあるが、それも公平ではなく、必要な安全基準の設定を提起してこなかった世論全体の責任である。なお、そのような世論に従い社会的要請が生じた場合には当然、ナントカ省や自治体(正確には国会や地方議会というべきかもしれない。)は法令や条例を定めるのが仕事であるし、行政府はそれを実施することによって安全確保に務めなければならないのは当然の責務である。

筆者は海や空の安全確保という観点から長い間仕事をしているが、海や空の世界には過剰とも言えるほどの安全基準が国際条約や国内法という形で存在する。船長やパイロットになるためには安全確保に関する必要な知識を身につけ、試験に合格して、資格をとらなければならない。衝突予防装置の搭載義務や構造上の安全基準なども多数存在する。また、遭難という最悪の事態となった場合でも迅速に捜索救助(SAR)当局に通報できるよう緊急時の発信機(ビーコン)や標準化された通信機器の搭載も義務付けられているし、通信方法なども全て国際的に標準化されている。船員やパイロットには条約で定められた各種の注意義務がある。それを守らなかったら当然彼らは非難され責任を追求される。しかし、そのような注意義務を払っていたとしても事故は起きる。その場合でも被害を最小限に収めるよう海や空の世界では何重にも対策がとられている。

他方、冬山、夏山を問わず、登山の安全基準という観点で見た場合、そのような注意義務が具体的に明文化されているか? Noである。登山時に装備すべき装備品の搭載義務が明示されているか? Noである。確かに登山はレジャーであって、乗客等の運搬を業務とする船舶や航空機と同様に規制するのは困難であろう。しかし、政府がガイドラインという形態で示すことや山岳関連団体の自主規制ということで示すことはできるであろうし、危険度が高い特定の山に入る場合には必ずコレコレの装備を持っていきなさい、持たない人は入れません、などというように条例で規制してしまうことだって知恵と工夫を凝らせば可能である。安全確保については、自主性に期待するのはなかなか困難であり、今も昔も法令による規制という手段が必要である。

事前に定められた注意義務などの安全基準なしに、事故後に現れた登山の専門家と称する人たちが自分自身の基準をもとに「これをしなかったから悪い。」「これを持っていかなかったから悪い。」などのように事後的に非難するのは簡単であるであるが、公平ではない。客観的基準に基づかないものは個人的バイアスがかかっており公平性に欠ける。

那須の事故を無駄にしないためには登山に対する具体的かつ効果的な安全基準の制定が必要である。マスコミも誰かの責任追及ばかりするのではなく、このような問題提起をし、世論を喚起するのが仕事。我が国は法治国家である。この点をよく再認識もらいたいものである。

那須雪崩事故→要:携帯電話の低温対策

今年3月の那須雪崩事故の検証委員会報告書が発表されている(→栃木県HP)。事故発生が8時半、緊急通報があったのが9時20分頃、それも携帯電話からではなく、先生が走って降りてきてセンターハウスの電話から緊急通報した。この一時間近いタイムロスは一刻を争う人命救助には致命的。携帯電話の電波が山の上に届いていなかったのかなとも思ったがそうではなく、電波は来ていたが、携帯電話が動作しなかったという。原因は『携帯電話の低温対策の不備』のようである。

一般的な携帯電話の動作保証温度は、0度〜35度程度(iPhoneの場合)。この範囲を超えた場合でも動作しないというわけではないが、内蔵のリチウムイオンバッテリーの消耗速度は早くなる。25度で動作する時間を100%とすると、マイナス20度ではその66%の時間しか動作しない。すなわち、25度で20時間動作するものでも、マイナス20度では13時間しか動作しない(→「スマホはどの程度低温に弱いのか実験」)。

山中の夜間等は零度以下に冷え込むだろう。そのような環境に携帯電話を長時間置いておくと通常よりもバッテリーの消耗速度が早くなるので、いざ使おうとしたときに電池切れで動作しないということになる。

冷え込む山中に携帯電話を持ち込む場合は、携帯電話もある程度暖めておかなければバッテリー切れが起きやすいということは認識しておく必要がある。容量の大きい予備バッテリーも持っていった方がよい。本件も今回の那須事故の一つの教訓として、今後の指導、研修等に反映していく必要のある項目である。

北朝鮮ミサイル:船舶・航空機にとっての危機

今日は、朝0600頃から携帯のJ-Alert情報が鳴り続け、NHKニュースもミサイル情報一色となった。北朝鮮ミサイルは今始まったことではないし、ある程度、マンネリ化している面もあるので、余計に最悪の事態になった場合の混乱はあまり想像したくない。

安全保障上の議論はニューヨークの国連安保理でやってもらえばよいが、船舶や航空機への安全について、もっと真剣に考える必要があるだろう。この種の議論は、国連本部ではなく、その専門機関であるIMO(国際海事機関:ロンドン)とICAO(国際民間航空機関:モントリオール)である。

1997年前後だったと思うが、北朝鮮が最初に「衛星」と称して日本海に向けミサイルを発射した際には、日本から「船や飛行機にあたったらどうするんだ!」とIMOとICAOにそれぞれ文書を提出し、北朝鮮を非難した。これを受けて、その後の北朝鮮は、一応ロケットを発射する前にIMOやICAO事務局長に文書で通報し、それを受けて、沿岸国が船舶や航空機に対する航行警報やノータムを出して注意を促していた。

しかし、最近のミサイルの発射の前にはこの手続きを踏んでいないだろう。この手続を踏んで、事前通報がIMOやICAOに送付されていれば、事前に予測できるので、こんなドタバタにはならないはず。アメリカやロシアだってミサイルの発射実験などをする際には、船舶や航空機にあたらないよう十分注意して警報などを出して行っているのだが、北朝鮮にはこのような常識が通用しない。筆者は船舶や航空機の安全の専門家であるので、北朝鮮のこのような態度には大変な憤りを感じる。

逆に言うと、事前に警報などを出さずにミサイルを発射すれば、それは他国に対する「攻撃」の意思ありと理解されても仕方ない行為である。たとえ、それが陸を狙ったものでなく、海を狙ったものであっても、そこには船舶や航空機がいる。そして、それはどこの国の船舶か航空機かわからない。全世界の国に対する攻撃以外の何物でもない。

安保理の議論では、また、制裁決議が出されるのだろう。しかし、それとは別に、IMOやICAOにおいては、北朝鮮の行為は、100%船舶や航空機の安全を無視したものであるので、加盟国としての全ての権利剥奪、除名、その他、取り得る最も厳しい措置をすべきである。もともと、北朝鮮はIMOやICAOでは全く存在感などなく、彼らが会議に出てくることもほとんどない。そうゆう国である。一応、ロンドンには北朝鮮のIMO代表部と言われるものもあるが、何をしているのかさえよくわからない。これなども閉鎖させるべきである。

このままほっておけば、あの国は、そのうち陸に向けて平気で撃ってくるだろう。平和的解決を望むが、核兵器を搭載した弾道ミサイルを完成させる前に、国連軍を編成した上での軍事的解決も必要な時期に来ているのではないだろうか。そうすれば、日本や韓国にも一定の被害が生じるだろうが、核兵器で攻撃される事態になると更に被害は致命的になる。大きな被害を防ぐために小さな被害はある程度受け入れざる得ないのかもしれない。

災害時における救助要請手段

先週発生した九州豪雨ではこれまでのところ29名の方が死亡し、まだ、行方不明者が21人もいるという。テレビなどを見ていると、被災者がLineやTwitterなどのSNSにて救助を求めている状況が数多くあるように思う。Twitterでは「#救助」などというハッシュタグをつけて拡散し、救助要請メッセージが広がっていったとも報道されている。しかし、公的な救助を求めるのであれば、このような手段は好ましくない。

人命救助や捜索救助は、自助、共助、公助の3段階に分かれる。自助は、自分自身でなんとかすることであり、共助は要救助者近辺のコミュニティーによる救助、そして公助とは、消防や警察、自衛隊などのように税金で運用されている公的救助機関による救助である。人命救助は、時間との戦いになることが多いため、到着までに時間を要する公助ではなく、可能な限り、自助や共助を実施することが望ましいことはいうまでもない。そして、共助を求めるのであれば、LineやTwitterを使うというのもわからないではない。しかし、LineやTwitterでは情報が世界中に広がりすぎる。

Twitterで救助を求め、たまたま、すぐ近くに住んでいる人がそれを目にし、救助に向かうというようなシナリオが考えられるなら、それでもいいだろう。しかし、その可能性はまずないし、福岡に住む人がTwitterで救助を求め、それを目にした北海道に住む人ができることは、110番や119番に電話し、「救助を求めている人がいます、助けてあげてくだい。」ということぐらいである。このような間接的な救助要請が110番や119番に殺到したらどうなるか。各地の110番や119番は大混乱し、大変なことになる。出処は一つであり、同一の救助要請が何百、何千と寄せられることになるのである。救助要請を受けた警察や消防では、同じ人による救助要請なのか、別々の救助要請なのかすら判断がつかなくなるだろう。

携帯電話が繋がっているのであれば、わざわざSNSなどで間接的な救助を不特定多数に求めるのではなく、本人が直接110番や119番に電話するのが最もよい。110番や119番では携帯電話の発信位置を特定するシステムも備えられているので、瞬時にその発信位置がどこなのが判明し、また、発信電話番号から誰が発信していのかも特定できる。多くの人は、110番や119番などに電話した経験などないだろうから躊躇するのかもしれないが、他人が間接的に通報するよりも、本人が直接的に通報するほうが、助かる確率ははるかに高い。大災害時は、110番や119番もつながりにくいという事態もあるのかもしれないが、その場合でもつながるまで何度かかけ直すことが重要である。

被災地の遠方に住む人が被災地の家族に安否確認し、連絡がとれないので、本人に代わって消防や警察に通報し、捜索救助を要請するというのは必要な間接救助要請だろう。しかし、それ以外のSNSを経由した間接的な緊急通報は、かえって事態を悪化させるということも理解しておく必要がある。

ミサイル飛行時間に関する誤認識

今朝0620分頃、NHKニュースを見ていてところ、「北朝鮮がミサイルを発射した。我が国のEEZ(排他的経済水域)に落下する可能性がある。」と、さも未だ飛行中なので、注意を促すような報道があった。加えて、「海上保安庁がEEZ内に落下する危険があるので注意し、不審な物体を発見した場合でも近づかないよう航行船舶に対する航行警報を発令した。」とも報道した。

しかし、0640過ぎの菅官房長官会見を開くと北朝鮮がミサイルを発射した時刻は「0540頃」だという。それが事実なら、北朝鮮がミサイルを発射したのが5時40分で、それが6時20分以降まで飛行していたとすると、40分以上飛行していることになる。これはおかしいなと思ったのは私だけではないだろう。北朝鮮が、5月14日に発射したときは2000キロという非常に高高度だったが、それでも飛行時間は30分位である。通常の高度なら、飛行時間はそんなに長くはない。

事実、7時半ころNHKが韓国側の報道を伝えたが、それによると「発射時刻は0540頃、低高度で約6分飛行し着弾した。」というものだった。北朝鮮から日本までの距離は約1,000km(平壌から日本海沿岸までの距離)で、ミサイルの速度が約10,000km/hだとすれば、低高度なら約6分である。この速度なら、政府が発射を探知し、着弾前に警報を出して注意を促すなどというのは、ほぼ不可能なほどの短時間である。

0830頃の菅官房長官の会見によると「(ミサイルは)約400キロ飛行し、新潟県佐渡島から約500キロ、島根県隠岐諸島から約300キロの日本海上に落下した」ということだったので、約400kmを約6分で飛行したということになるが、この場合、このタイプのミサイルの速度は、時速にすると400➗(6➗60)=4,000km/hということになる。多分これはミサイルの速度としては遅いほうだろうと思うが、時速4,000km/hでも1,000kmを飛ぶのに要する時間は、1000➗4000✕60=24分である。

いずれにせよ、北朝鮮から日本までの飛行時間が30分以上にもなるということは、高度がよほど高いか、速度がよほど遅いかという場合以外はありえず、10,000km/hを低高度を飛ぶものなら10分とかからないと考えておくべきだろう。

ガリレオSAR(捜索救助)サービスが正式に始動

The Galileo Search And Rescue (SAR) service, made possible by the Galileo satellite constellation, is now active. Galileo SAR is Europe’s contribution to the COSPAS-SARSAT network, a distress…

情報源: Galileo search-and-rescue service officially launched : GPS World

 

欧州が打上げたガリレオ衛星による捜索救助サービスが4月6日に正式に始まった。ガリレオ衛星システムとは、欧州版のGPSのようなものであり、物体の緯度経度を高精度で測位するための衛星システムである。GPSは車や携帯でも使用されているので多くの人が知っていると思うが、実はGPS以外にも欧州のガリレオの他、ロシアのグローナス、中国のコンパスなどがあり、中途半端ではあるが日本の準天頂衛星システムもこれに類するものである(これらは総称して”GNSS”(Global Navigation Satellite Systems)と呼ばれる。)。

ガリレオのSARペイロード(遭難アラートを処理する装置)は、遭難した船舶や航空機から発射される406MHzの遭難アラートを中継し、地球上に数多く設置されたMEOLUTと呼ばれる地上受信局でそれを受信し、処理して遭難位置を算出する。このようなシステムは、もう、30年も前からあったが、それは、アメリカ、カナダ、フランス、ロシアが打上げた低軌道衛星(その多くは気象衛星に便乗したもの)で処理し、電波のドップラー効果を計算して位置を計算するものだった。しかし、地球を回っている低軌道衛星は、5〜6機しかないため、衛星が回ってくるまでに時間がかかり、最悪の場合は、遭難船が406MHzの電波を出しても、1時間半くらい衛星が回ってこないということもあった。

その点、ガリレオ衛星システムは、地上から2万キロ位の高さを回る中軌道衛星30機程度で構成され、地球上のどこで遭難しても、衛星が3つ以上見えるため、即座に遭難位置が計算される。

ガリレオの他、米国のGPSやロシアのグローナスにも同様のSARペイロードが搭載されるのだが、正式に運用開始を宣言したのはガリレオが最初ということになる。GPSやグローナスも中軌道衛星なので、これらは総称して中軌道衛星捜索救助システム(MEOSAR)と呼ばれている。

ガリレオのSARペイロードには、GPSやグローナスにはない「リターンリンク」とよばれる機能も付加されている。伝統的な406MHzビーコンは、遭難アラートを送信するだけの片方向通信機能しかなかったが、ガリレオリターンリンク機能を搭載したビーコンであれば、陸上の救助機関側からビーコン側に対して短いメッセージを送ることができるため、これまでにはなかった新しい機能である。

このMEOSARシステムは、船舶や航空機の遭難位置を高精度かつ迅速に測定できるものであり、非常に有効である。

なお、406MHzの電波を発射するビーコンは、船舶用のものはEPIRB(非常用位置指示無線標識)、航空機用のものはELT(航空機用救命無線機)と呼ばれ、もう30年以上も前から使われてきた。EPIRBやELTは沈没や墜落と同時に自動的に電波が発射される機能があるのだが、これら以外にも携帯電話程度に小型化され、ボタンを押すだけで遭難アラートを送信することができるPLB(携帯型救命無線機)と呼ばれるものもある。これがあれば、山の中での遭難など、陸上遭難でも非常に有効なのだが、実は、日本では、様々な制度不備のため陸上では使用できない。また、406MHzというUHFの電波なら、雪崩に巻き込まれたような場合でもその埋没深度が浅ければ、雪を通り抜けて、電波が衛星まで届く可能性もゼロではない(実験したことがないので正確なところはわからないが)。MEOSAR衛星から中継された406MHzの電波を地上の複数のMEOLUTで処理すれば数メートルくらいの誤差のピンポイント位置を出すことができる。

先日、紹介した雪崩ビーコンなるものは、457kHzという非常に波長の長い長波が使用されており、雪の中でも電波が通るという点はメリットなのだが、直進性の低い電波であるため、使い慣れないと埋没者の位置を確定できない。しかし、埋没と同時に406MHz波を送信することができるPLBのようなものが開発されれば雪崩捜索救助には役に立つかな、と一瞬思ったが、そのためには実験や開発するためのお金が必要だ。