雪崩捜索救助 (Avalanche Search & Rescue (AvSAR)) 

安全な登山を学ぶ場でなぜ--。栃木県那須町のスキー場で27日朝、登山講習中の県内高校生らの団体が雪崩に巻き込まれた。高校生7人と教員1人が死亡し、重傷者を含む40人が負傷する惨事に。深い雪に阻まれ、消防や警察、自衛隊による救助作業は難航。「我が子は」。保護者らは悲痛な表情で無事を祈った。【岸慶太、杉直樹、乾達】

情報源: 栃木・那須の雪崩:8人死亡 雪、一瞬で胸まで 生還生徒ぼうぜん 「無事で」祈り届かず – 毎日新聞

 

昨日、那須で発生した雪崩による高校生8人の死亡事故。雪崩事故自体は、あまり報道されていないだけで、結構、月に数度は発生し、犠牲者も毎回数人出ている。しかし、今回は、高校生が8人も犠牲になったということで、大きな社会問題になっている。警察は業務上過失致死で引率の先生方を立件する方針で捜査をしているようだが、このような事故が発生した時に誰か1人に責任を押し付けても、あまり問題の解決や改善にはつながらない。恐らく、先生方にしてみれば、事故の経験と周囲の地形、その時得られていた情報などを根拠に、この場所で歩行訓練するくらいなら大丈夫だろうと判断したのだろう。判断に甘さはあったのだろうが、それらはいずれにせよ後付けの講釈である。

冬山に入る以上、どんなに注意しても、雪崩のリスクは存在する。様々な情報をもとに極力そのリスクを回避すべきことは当然だが、最悪の場合、つまり、雪崩に巻き込まれた場合でも迅速に救助できるように準備できていたかどうかという点を見直す方が、「なんで警報が出ていたのに歩行訓練を実施したんだ!」といって責任追及するよりもより生産的で将来の犠牲者の削減につながる。

まず、生徒全員が雪崩ビーコンを所持していたのかどうか。テレビでの地元消防の記者会見や生存者の高校生のコメントなどを聞く限り、いずれも目視で、埋まっている高校生の体の一部が表層に見えている部分を頼りに掘り出し救助を行っているので、恐らく、ビーコンなどは所持させていなかったのだろう。彼らが全員ビーコンを所持し、事故発生後直ちに難を逃れた生徒と先生方で電波捜索を実施し、迅速に埋没地点が特定できていれば、もう少し、犠牲者の数は少なかったのではなかろうか。全員ビーコンを所持していなかったとの報道(⇒全員「ビーコン」不携帯)もあり、そうなると、なぜ、ビーコンを所持させなかったのかという点が問題になりうる。しかし、現状では、冬山に入るにあたり、ビーコンの所持を義務付けた法律も条例も存在しないので、ビーコンを所持していなかったからといって責任を問われるわけではない。冬山に入るにあたり、ビーコンの所持を義務付けるための制度構築なども検討する価値はあるはずである。例えば、指導者的立場にある人に指導される側の人々に対して、ビーコンを所持させる指導義務を科し、怠った場合にはなんらかの罰則を適用するということもできる。車の助手席や後部座席のシートベルト着用義務などは、着用する本人へ義務を科しているのではなく、ドライバーに助手席や後部座席に座る人にシートベルトを着用させる義務が負わされている。同じような発想が適用できないか。

消防の記者会見を聞くと、地元消防は雪崩が発生してから3時間後くらいに、体の一部が表面に出ていた3人を発見し、その周囲を掘り出した所、埋没していた5人を発見したと述べていた。しかし、3時間も経ってからの救助では生存確率が極めて低く、遅過ぎである。雪崩事故の場合、埋没してから30分間で急速に生存確率が下がり、30分以上経過した場合の生存確率は、雪の条件などにもよるが場合によっては10%以下まで落ちる(参考:カナダやスイスの雪崩生存曲線)。

雪崩に巻き込まれた仲間がいた場合、更なる雪崩に注意することは当然必要だが、そのリスクが低いと判断できた場合には、救助隊を呼ぶのと同時に、無事だった仲間によって、直ちに目視や電波捜索によって、埋没地点を特定し、迅速に掘り出し救助を実施するということが不可欠である。その捜索救助についても、誰か(昨日の事故だったら引率の先生だろう)が現場指揮官となり、トリアージを念頭に置きながら最大多数を救助するための捜索救助プランを即座に立案して、無事だった仲間の協力を得てそれを実施するという措置が必要である。

地元の消防や警察などを救助隊は、当然、呼ぶべきだが、現状では彼らの到着は事故発生から1時間も2時間もたってからになる。しかし、これでは遅い。彼らにできることは遺体の捜索ということになってしまう。

従って、今回の事故から学び、改善すべきことは次の2つである。

1.仲間による救助率を向上させるための措置: 登山者全員が雪崩ビーコンを持つと同時に、その使用方法や捜索救助方法について、必要な研修をできる限り多くの人が受け、相互主義で救助できるようにすること。ビーコン所持の義務付け及び捜索救助研修受講の義務付けなど。なお、そのための研修は、日本雪崩ネットワーク(JAN)などがすでに実施している。

2.外部の救助隊(警察、消防、スキーパトロール、その他)による救助の迅速化: 現状での彼ら仕事は、ほとんどの場合、遺体の捜索になっている。しかし、もっと連絡があってから現場到着までの時間を短縮し、かつ、迅速に利用可能な人員資機材などの資源を組織化するための仕組みがあれば、救助できる場面もあるはずである。山岳救助は、主として警察の仕事になってはいるが、別に警察に全てを押し付ける必要はない。その他にも救助の際に支援してくれる民間団体や半公的な団体も多い。課題は、これらの資源を迅速にどうやって組織化し、現場に投入するかである。そのための手法は唯一つ。「雪崩インシデントに対するマネジメントシステムの標準化」である。米国やカナダなど、雪崩に限らず、全てのインシデントに対するマネジメントシステムがICSなどで標準化されている国では、雪崩インシデントについてもICSを適用し、そのマネジメントシステムが標準化され、現場での組織化が図られている。日本の場合、この全国レベルでのインシデントマネジメントの標準化が全く進んでいないが、雪崩インシデントも、非常に多くの組織が関係し、その組織化が必要なインシデントである。マネジメントが標準化されれば、その組織化コストが下がり、意思決定や資源配分が迅速化する。

なお、雪崩インシデントに対するマネジメントの標準化は、外部の救助隊の組織化といる側面だけではなく、仲間による救助と外部から駆けつけてくる救助隊による救助活動とをシームレスにつなぐためにも必要となる。まずは、雪崩インシデントに対する対応ということから、その標準化を検討し、他のインシデントにも広げていけばよい。

 

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