ワンウェブ(OneWeb)

ワンウェブとは、648機もの超小型の低軌道衛星(高度1200km)によって全地球をカバーし、地球の隅々にまでインターネットを行き渡らせるという計画を遂行するベンチャー会社である。途上国を中心に全世界人口の54%もの人々がインターネットにアクセスできない環境下にあり、ワンウェブはそこにインターネットを提供するため衛星を打上げるという。ワンウェブには、昨年12月に日本のソフトバンクが出資して筆頭株主となり、先月(2017年2月)にはワンウェブとインテルサット(固定通信用の静止衛星保有数では世界最大の衛星通信事業者)の合併が発表され、ソフトバンクは合併後のインテルサットの39.9%の議決権を有する筆頭株主になるという。

ワンウェブは、今流行りの超小型衛星を使う。超小型衛星は、静止衛星に使われるような大型衛星に比べると製造コストが安い。おまけに、ソフトバンクに出資してもらって、フロリダに衛星を一週間に15機も製造できる製造工場をも独自に作る計画という。これまで、衛星のメーカーと言えばボーイングやロッキード、エアバス、タレス、日本の三菱などごく一部の大企業に限られていたので、衛星の製造分野へも垂直統合的に進出するということだろう。

ワンウェブの低軌道衛星とユーザー端末との間の通信には、Kuバンド(12/14GHz)帯を使い、衛星とゲートウェイ局との間の通信にKaバンド(17-30GHz)を使うらしい。問題はこのKuバンドである。赤道上空36,000kmの多くの静止衛星がすでに使用しているため、この真下を1200mの高さで飛ぶ低軌道衛星は、静止衛星からのKuバンドの電波に干渉を与えることになる。しかし、ワンウェブは、静止衛星と同じ方向からは電波を出さない「Progressive Pitching」(特許申請中)という手法でこの問題を乗り切るらしい。また、全世界で特定のKuバンドスペクトラムを使うということになると世界中で周波数調整をしなければならず、非常に困難だが、彼らは、10年位前に頓挫した「テレデシック」という企業からこの権利を買収して確保した。テレデシックは、膨大な数の低軌道衛星で全地球をカバーするという計画で、マイクロソフトのビル・ゲイツなどが創始者として始まったものだが、多くの低軌道衛星計画と同様に破綻してしまった。考えてみれば、ワンウェブは、このテレデシックの焼き直し版とも言えるのかもしれない。

KuバンドやKaバンドの周波数は、かなり降雨減衰がある。衛星放送の電波が雨や雪のときによく止まるのと同じようにこのサービスも豪雨地帯や豪雪地帯ではかなり電波が減衰し、届きにくいことがあるはず。今でも静止衛星からのKuバンドやKaバンドの電波によるVSATサービスというのはあるが、船舶などでは、Lバンドインマルサットサービスなどと併用し、Kuの電波が切れた時にはLバンドに切り替わるようになっている。ワンウェブはこの点をどう考えているのだろうか。

Kaバンドが衛星と地上のゲートウェイ局との間の通信に使われるらしいが、私は当初、Kaバンドと聞き、イリジウムで行われているのと同様な衛星間通信用としてKaバンドが使われるのだろうと思っていた。しかし、ワンウェブがITUでプレゼンした際の資料をよく読むとKaバンドはゲートウェイ局と衛星との間の通信用と書かれている。ということは、このワンウェブの衛星システムは、既存のグローバルスター衛星システムと同様のベントパイプ衛星システムということになり、衛星は地上のゲートウェイ局とユーザー端末との間を周波数を変換して、中継するだけのものということになる。グローバルスターシステムのカバーエリア図を見ればわかるとおり、衛星間通信を行わないシステムの場合は全地球をカバーするということができない。どうしても、ゲートウェイを設置できない海のど真ん中では通信できないことになるし、シベリアの奥地などのように陸地でも誰もゲートウェイを設置しないだろうと思われる地域では通信できない。イリジウムはKaバンドで衛星間通信が行われているので、地上のゲートウェイ局は地球上に一つあれば全地球をカバーできる。しかし、イリジウムのような衛星間通信を行うシステムの衛星は複雑になり、衛星の製造コストが高くなる。イリジウムが第二世代衛星を未だに打上げられないのもこの衛星コストのためである。ワンウェブの衛星が、単に衛星ひとつで地上と地上の通信を周波数変換して中継するだけのベントパイプ衛星なら、確かに衛星の製造コストはそんなにかからないが、衛星間通信をしないと全地球をくまなくカバーするということはできないので、このシステムは、船舶や航空機用としては、あまり望ましいものではない。更に、Kaバンドが地上との間に使用されているということになるとKaはKu以上に降雨減衰の影響を鋭く受けるので、雨や雪が激しい時には特定の地域の通信が途切れるということが発生するということになる。

このワンウェブのCEOであるグレッグ・ワイラーという人、O3bという地上8000kmの中軌道衛星で途上国にインターネットを提供するというビジネスを2007年に設立し、2012年にワンウェブを設立するまでそれに携わっていた。O3bは、Other 3 billion(忘れられた30億の人々)という意味で、目的はワンウェブと同じように地球上の隅々にまでインターネットを行き渡らせるというものである。O3bとワンウェブの違いは、衛星の高度や衛星の軌道、通信周波数、端末の大きさ、カバーエリアなどである。O3bの衛星は全地球をカバーする軌道を飛んでいないため、赤道下の国々にしかサービスが提供されない。なお、O3bは、すでに十数機もの衛星が打上げ済。なぜ、このワイラーという人は、自分で始めたO3bを途中で放り出し、ワンウェブを設立したのかよくわからない。O3bではカバーエリアが狭いということが理由だろうとの意見もあったが、ワンウェブも上記の通り衛星間通信なしでは必ずしも全地球をカバーできるものにはならないのであまり変わりはないはずである。衛星高度が低いので通信の遅延が少いというメリットは確かにあるが、データ通信を行っている限り、1秒前後の遅れなど誰も気にならない。O3bもワンウェブも、途上国の通信事業者をターゲットにしたBtoB型ビジネスモデルであり、それ以外は、あまり大きな違いはないようにも見える。もし、様々な理由で創始者たるワイラーという人がギブアップしたということであれば、このO3bはもうオダブツということだろうか。

端末は、フェーズドアレーアンテナを使用した小型端末で、WiFiや3G/LTEなどの電波によって、スマホやパソコンなどと接続する。200メートルくらいしか飛ばない携帯電話の基地局とも言える。この他、船舶向けの端末や既存の携帯電話のタワーに設置するための装置なども用意するらしい。

 

アイデアや構想は、非常におもしろいように見えるが、これらは決して珍しいものではなく、既存のものの焼き直しであり、何らかの形で似たようなものが存在する。

そして、最大の問題は、ビジネスとして成り立つのか、という点である。すでに掲げたワンウェブの前身とも言うべきテレデシックも途中で頓挫しているし、ひょっとするとO3bもすでにズッコケそうなのかもしれない。低軌道衛星システムの本家本元と言えば、イリジウム、グローバルスター、オーブコムなどだが、これらはいずれも、一度や二度は、チャプター・イレブン倒産を経験しているのが普通である。倒産したからと言って衛星がなくなるわけではないので、オーナーが替わったり、政府に救われたりしながら、何とか細々と継続されているものが多いが、低軌道衛星サービスは、静止衛星サービスと比べ、多くの衛星が必要になり、衛星コストがかかりすぎるため、大体失敗するのがこれまでは普通であった。

ワンウェブは、この最大のネックだった、衛星コストを超小型衛星を安く大量生産することで解決する意図のようだ。しかし、衛星がいくら安くなったといっても、648機もの衛星が必要ということになるとその費用はバカにならないだろう。イリジウムも、かなり小型衛星で、たった66機必要なのだが、それでもコケている。

ワンウェブは、インテルサットとの合併、ソフトバンクによる出資などによって、衛星の打上げに必要な膨大な資金は、なんとか確保できるのかもしれない。問題は、衛星が無事全部上がったとして、ほんとにそれが、ビジネスとして成り立っていくかであろう。648個の衛星を継続的に維持していくにはかなりコストがかかるはず。

ワンウェブのみならず、スペースXなども似たような計画を有しており、O3bも含めると新たな低軌道衛星による高速インターネットサービスにも、複数のプレーヤーが存在することになる。既存のイリジウムやグローバルスターのようなサービスや静止衛星によるサービスも加えると競争は更に激しいものになる。

ところで、ソフトバンクは、6年前の3・11以降、防災用との観点から衛星通信にかなり熱心になり、スラヤと提携してみたり、Sバンドを使った独自衛星の打上げを画策してみたりしていたようだが、この独自衛星というプランは消え、ワンウェブにシフトしていくということだろうか。

いずれにせよ、ソフトバンクグループのお手並み拝見である。

 

 

 

 

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