北朝鮮ミサイル:迅速な意思決定が必要

昨日、北朝鮮が発射したミサイルが秋田県沖のEEZに落下したことが大きな社会問題になっているが、次の2つの点を指摘したい。

1.航行船舶及び航空機に対する警報が発令されていない

報道を見る限り、北朝鮮は、今回の発射に先立ち、航行船舶に対する危険を知らせる航行警報(Notice to Mariners)も、飛行する航空機に対して危険を知らせるノータム(Notice to Airmen)も発していない。ミサイルの試験であろうが、人工衛星の打ち上げであろうが、船舶や航空機に対して危険を生じさせる行為である以上、船舶航行警報であれば国際海事機関(IMO)、航空機へのノータムであれば国際民間航空機関(ICAO)によって定められた手続きにより、関係国に事前に通知するとともに、船舶や航空機に対して危険な海域や空域に入らないよう通知しなければならない。これをしなければ、万一、航行船舶の頭上にミサイルが落ちてきたり、航空機にミサイルが当たったらどうするんですか、ということになる。

報道では「国連安保理決議違反だ!」ということばかり、大きく取り上げられているが、どちらかというと政治的な色彩の強い国連安保理決議への違反よりも、船舶や航空機に危険を生じさせる行為を一般国際法に違反して平然と行った行為の方が、道義的にも責任は重く、IMOやICAOで議論されれば北朝鮮に弁解の余地はないことになる。なお、あまり知られていないのかもしれないがIMOやICAOも国連の専門機関であり、ニューヨークの国連本部で作られた国際法も、IMO(ロンドン)やICAO(モントリオール)で作られた国際法もその軽重に差があるわけではなく、国際法は国際法である。

もう、20年近く前になるかもしれないが、最初に北朝鮮が「衛星」を打ち上げたとき、北朝鮮はやはり、この事前通知をIMOやICAOにしなかった。そのときの運輸省は、IMOやICAOに対して「危ないじゃないか、船舶や航空機に当たったら、どうするんだ!」という趣旨で北朝鮮を非難する決議案を提出した。当然、北朝鮮以外の国は全会一致で賛成してくれるはずだったのだが、IMOでの議論の最中になんと韓国からイチャモンがついた。理由は簡単、決議案に「物体が日本海(Sea of Japan)に落ちた」という一文が入っていたためである。韓国は、この文を「東海(East Sea)に落ちた」に修正すべきだ、と主張した。しかし、これに日本は政治的な理由で引き下がることができない。お互い一歩も譲れなくなってしまった。最終的には、仲介が入り、「日本の近く(in the vicinity of Japan)に落ちた」という表現で双方折り合いをつけた。しかし、議論を聞かされている他の国から見ればあくびが出るようなつまらない交渉だったろう。なお、これは、日本が最初から「in the vicinity of Japan」という表現で案文を作っておけば無意味な時間を費やす必要はなかったものである。

北朝鮮は、それ以来、衛星を打ち上げるときは、一応、IMOやICAOに事前通知はしてきたはずだが、今回、それを全くしていないということになると、それは、あの若々しい大親分の命令なのか、何なのか、よくわからないとしか言いようがない。事前に航行警報さえだせばミサイルの発射試験をしてもよい、というわけではないが、一切の航行警報なしに実施するということは、外国への攻撃の意志あり、と解釈されても仕方のない行為である。

2.日本の意思決定システム

何年か前にも書いたが、防衛大臣の破壊措置命令がなければ、北朝鮮のミサイルを迎撃できないような意思決定システムになっているのであれば、意思決定に時間がかかりすぎ、上記のように、何ら事前通報なく発射される事態となった場合、日本は完全にオダブツである。

日本は大臣の破壊命令がなければミサイルを迎撃できないのか?

日本の役所は、防衛省を含め、非常に縦長のピラミッド型官僚組織であり、極めて長いChain of Commandがある。意思決定に必要なハンコの数と言い換えるとわかりやすいが、現場の担当者から大臣の承認を得るまでに何人が間に入るだろうか。中間の人をすっ飛ばすと「俺は聞いとらん」と文句を言う人が出るため、一つの意思決定に関与する人間の数が、非常に多いはずである。このような仕組みでは、大臣の承認をとろうとしている最中に、日本の国内に落ちてきてしまう。ミサイルが飛んでくるまでの時間と意思決定に要する時間とどちらが早いか、想像すればすぐにわかる。

「自衛権の発動は文民統制の下で厳格に行われるべきだ」という意見もある。それは当然の事だし、理解できる。しかし、時間との戦いになるような意思決定が必要になる場合には、事前に一定の条件を定めた上で、現場に権限を委譲することも必要である。航空自衛隊が領空侵犯機に対してスクランブル発進するときに一々大臣の承認など得ていないだろう。よく考えてみれば、すでに似たようなことはこのように行っているはずである。日本海側にイージス艦を常時一隻くらいは洋上に展開しておき、いざというときは、東京の承認なしにでも迎撃できるような仕組みにしておいてもらわなければ絶対に間に合わない。

日本は、科学技術という観点からは北朝鮮などより遥かに進んでいることは間違いないと思うが、行政機関の意思決定システムが合理的か、という視点で見ると、非常に大きな疑問符がつく。いくら優れた科学技術があってもそれを最適に使うマネジメントシステムがなければ宝の持ち腐れである。村社会の意思決定システムを一度見直してもらいたいものである。

(注:政府は破壊措置命令を常時発令状態にする検討を始めた。)

 

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