日本版FEMAのイメージには多くの誤解がある

日本版FEMAの創設を政府が検討している(サンケイニュース参照)

それはそれで良いことだし、当然あったほうがよいだろう。しかし、昔から感じているのだが、日本では政治家を含め多くの人が米国FEMAの仕事を誤解している。「米国FEMAは強大な権限を持ち・・・」とか「米国ではFEMAに一元化されているので・・・」などという論調や国会答弁を何度も見たことがあるが、何を根拠にそんなことを言っているのかなと常々思っている。大体、日本の学者などは「日本の危機管理を一元化しろ!」などというが、その「一元化」の定義たるや一体何なのか? おそらく、マスコミもよく理解していないのでこれらの誤解を煽っている。

そもそもFEMAのミッションをそのWebサイトで見てみよう。そこには次のように書かれている。

Mission

FEMA’s mission is to support our citizens and first responders to ensure that as a nation we work together to build, sustain and improve our capability to prepare for, protect against, respond to, recover from and mitigate all hazards

ここに書かれているとおり、彼らのミッションは「to support」(支援すること)であり、他の役所や州政府などを「to direct」つまり指示や命令する権限などはどこにもない。これは米国という国家体制を考えてみれば容易に理解できることである。米国は各州が独立国に近い権限を持つ「連邦制」である。日本のように中央集権的な国家ではない。中央省庁の権限強化が目的なら、すでに日本のほうが米国よりもはるかに強い権限を持っている。災害時に干渉し過ぎなほどである。そもそも、連邦政府は州政府を補完しているにすぎず、何でも連邦政府で決められるわけではない。よく、日本の中央省庁の公務員が人事院の留学制度などを利用して米国に調査に行くと、大体、多くの人が日本の中央省庁でやっていることは米国でも連邦政府でやっているに違いないと思っていくのだが、実際はそうではなく、よく米側から「それは各州政府に聞いて下さいね・・・」と言われる。米国とはそもそも個人の自立、地方の自立、州の自立が基本にあり、足らないところを連邦が支援しているに過ぎない。

基本的に米国のインシデントマネジメントは、ボトムアップである。トップダウンではない。まず、何らかのインシデントが発生した場合には、市町村など地元で対応する。しかし、地元だけでは対応できない場合には州政府に支援を依頼する。そして、その州政府でも十分な対応できない場合に初めて連邦政府に支援が要請される。何か発生するとすぐにFEMAが飛んできて強力に地元を指揮して対応する、などというのは映画の見過ぎであり、事実ではない。そして連邦政府の支援と言えどもFEMAだけで全てできるわけではない。捜索救助(SAR)なら沿岸警備隊(USCG)や空軍に頼まなければできないし、外国からの支援が必要なときには国務省に頼らなければならない。通信のことならFCCに頼る必要があるし、農業支援が必要なら農務省に頼る必要があるだろう。専門的な支援は、それを専門とする役所が支援しなければならないのであって、何でもかんでもFEMAでできるわけではない。これは筆者が10年前ジョージ・ワシントン大学大学院で勉強した時に、USCG OBの教授から最初に教わったことである。教授は「アメリカのインシデントマネジメントは、ボトムアップだと思いますか? トップダウンと思いますか?」と学生に聞く。すると多くの学生が「トップダウン!」という。しかし先生から「NO! ボトムアップ!」と言われて上記のような説明を聞くのである。

 

ではFEMAの役割とは何か?

The Federal Emergency Management Agency coordinates the federal government’s role in preparing for, preventing, mitigating the effects of, responding to, and recovering from all domestic disasters, whether natural or man-made, including acts of terror. (FEMA Webサイトより)

つまり連邦政府の調整(coordinate)である。「調整」の言葉には他の役所に指示したり、命令したりする権限は含まれない。必ず、相手の同意が必要になる。他の連邦政府の役割を調整し、それでも足らないところは自らすすんで行うということである。州政府に減災するための予算を配分したり、緊急時に対応するためのトレーニング(ICSの研修など)を行ったり、当然、緊急時に自らが保有する資機材や人員を派遣して支援することもあるし、場合によっては災害マネジメントそのものを支援(企業経営に例えれば外部の経営コンサルタントが顧客企業の社長に戦略アドバイスをするようなものである。意思決定者は現場のインシデント・コマンダーであってFEMAではない。)することもある。しかしながら、FEMAがいれば全て大丈夫、ということではないし、そんなに万能ではない。

実際問題としては、米軍がイラクに反政府勢力に対して空爆するにあたっても、原則としてイラク政府からの要請がなければできないが、実際には様々なルートを使って圧力をかけて「要請させる」ということがあるように、災害対応するにあたってもFEMAが現地の現場指揮に対して「要請させる」ということはあるかもしれない。しかし、この場合においても、FEMAに「強力な権限」があるから行っているわけではなく、「高い能力、ノウハウ、専門性的知識」があるから行っているわけである。従って、日本版FEMAを作る時に勘違いをして「強力な権限」だけを与えても中身が1年か2年間隔の人事異動ですぐに変わってしまうような専門性の低い集団になってしまったら、何の役にも立たない。権限よりも高い専門性という実態の方が重要なのである。権限はなくても専門性のある集団は役にたつが、専門性がないのに強大な権限だけある集団ができたら悪夢である。

日本版FEMAを作るとしたらどんな役割が必要なのだろうか? 日本の場合、減災のための予算というのはこれまでにもかなりつぎ込まれてきているし、別に日本版FEMAがなければ予算配分できないというようなこともないだろう。問題は実践的な対応(Response)をするためのICSやNIMSのような統一的、つまり、標準化されたマニュアルなり仕組みを作り、それを研修や訓練などにより全国に浸透させるという部分だろう。この部分は今の内閣府などでは不十分であるように思う。また、日本版FEMA自体が様々な資機材(各省庁共通の通信機器など)や多くの専門家(最低でも10年は人事異動なしの集団が必要である)を保有し、関係省庁では足らない部分を支援できるようにできるならば更によいことは間違いない。

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日本版FEMAのイメージには多くの誤解がある」への2件のフィードバック

  1. ピンバック: 災害版のMBAでも作ったら? | SAFETYON

  2. ピンバック: 政府の危機管理組織の在り方について(最終報告) | SAFETYON

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