組織化コストの削減

以前の投稿で述べたとおり、物的な標準化、例えば、乾電池のサイズや電圧、電源プラグの形、携帯電話の通信方式、消防ホースのプラグの形などを決めてしまうということは、どこの企業が作った物をどこから持ってきても使えるということであって、その物と物の間にコンバーターや翻訳装置のようなものを挟む必要がなくなる、つまり、組織化コストを削減できるということがメリットである。これらは、物と物の間のインターフェースを決めるということだが、同様に人と人、人と組織、組織と組織の間のインターフェースを決めてしまえば、どこからどのような人や組織がやってきても、同じ仕事をしてもらえるということになり、個別にその都度、人に説明をしなくてもよい、ということになり、やはり、組織化コストを削減できる。つまり、考え方は物と物の間のインターフェースの場合と全く同じである。

ただし、人を対象にした場合には物のように目に見える形や電気的な特性のようなものがないので多少わかりにくい。どうやってやるのか、ということになると文書化、マニュアル化である。やり方や権限、流れ、など、いろいろなことをあらかじめ定義し、決めておき、あらかじめ頭の中に入れておいてもらう、という方法によらざる得ない。人によってはその身についている内容が違うこともあるだろうから、全てのことを知っていれば何でもすることができるわけだが、部分的にしか知らなければ組織の一部分についてなら仕事をすぐにしてもらえるということになる。資格制度というのはそのためにある。

ISO9000などのISOマネジメント規格といわれるものは、基本的に組織の間のインターフェースの在り方について定めている。ISO9000などの認証を得ようとする組織は、規格によって定められた様々な内容の文書やマニュアルを作らなければならない。そして、それらの内容を組織の構成員(会社であれば社員)に対して教育しなければならない。そうすれば、特定の人に依存することなく、誰がやっても同じアウトプットを出すことができる、ということになる。言い換えれば、組織と人の間の組織化コストが下がっている。一個人に属する「暗黙知」に依存する必要がなくなるため、言葉は悪いが人の交換が可能ということになり、製造業などにおいては誰がやっても一定の品質の物が常に生産できる、ということがある程度保証される。従って、ISO9000などの認証を得た企業が政府の安全基準検査などを受ける場合には、生産物は全て同じ品質であるということが推定できるので、生産物ひとつだけ検査すれば十分ということになる。しかし、ISO9000がない企業の場合はバラツキがあるかもしれないので、基本的に全部検査しなければならないということになり、検査だけでも大変な労力が必要になってしまう。

米ICSなどの場合は、組織の間のインターフェースのみならず、組織と組織の間のインターフェース及び人と人との間のインターフェースも定めている。大災害などの場合には、多数の組織が災害現場で共同して作業にあたる必要が出てくるが、その場合においてもそこに集まる組織と組織の間のインターフェースを決めておけば、迅速にどんな組織でも、災害現場にできるであろうより大きな組織に組み込むことができる、ということになる。また、逆に小さなインシデントの場合にはその現場に集まる数人の人で臨時に迅速に小さな組織を編成することもできる。言い換えれば、組織と組織、組織と人、人と人の全ての間の組織化コストが下がっている。米国でICSを「プラグイン組織」とか「モジュラー組織」などと呼んでいる所以である。

米国に日本の災害時に協力してもらうということまで考えたら、米国のICSをそのまま日本に輸入してしまうのが米国と日本の間の組織化コストを下げることができるので最も理想的である。しかしながら、米国と日本の間にはすでに大きな言葉の壁が存在しており、日本語と英語の間は一対一に対応しておらず、また、制度的違い、価値観の違いなども多数あるため、コピペすれば問題が解決するというような安易なものではない。一部の企業などは横文字を輸入しても違和感がなくスムーズにいくだろうが、日本全国津々浦々、山の中の田舎まで将来的には普及させなければならないことを考えたら、最大多数の日本人にとって理解しやすい、言い換えれば、組織化コストが低いシステムを開発したほうがいいだろう。恐らく、日本国内で発生するインシデントの99%は日本人のみによって対応しているであろうから、残りの1%のために米国に合わせるというのも合理的ではない。

また、日本人は米国のものならきっとよいものに違いないと考えがちであり、なんでも米国のモノマネを今でもしたがるが、米国のICSをモノマネして組織だのを編成しただけではなぜそれがよいのかというのが、直感的には理解しにくい。米国の場合は暗黙の常識として明確に書いてない部分がかなりあるように思う。意外とドイツのICSを定めたDV100という規則を読んだ方が重要な項目が全て規定されており、どんなことを決めておけばよいのかということが、わかるかもしれない。

実際問題としては、ISO9000などがあまりうまくいっていないように、組織の標準化というのはそんなに簡単なことではない。米国でICSの普及に30年を要していることからもそれは推定しなければならない。組織と組織の間のインターフェースとして決めておくことができる要素にはいろいろあり、1%決めることも100%決めることもできるわけであるので、一体どこから入っていくのがよいのか、順序なり、長期的な戦略なりをまず検討した方がよいのではないだろうか。現在、我が国おいてもすでに様々な法律によっていろいろな規制があるが、それらはある意味、組織と組織の間のインターフェースを決めているものであるので、今現在標準化された要素が全くないというわけではない。日本の役所と役所の間の壁は外国に比べるとかなり高いのが現実であり、まずは標準化のための戦略が必要だろう。

 

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