災害時は逆ピラミッド型組織

1 なぜ多くの組織はピラミッド組織なのか

企業や官庁を問わず、なぜ多くの組織はピラミッド型(経営学上は「官僚制組織」と言います。)なのでしょうか。ピラミッド型組織の起原はマックスウェーバー(1864-1920)の時代にあると言われていますので、少なくとも数百年もの歴史があると思われますが、ひとつの大きな理由は通信手段です。

インターネットのような広範囲の人に同時に情報を送ることができる手段(これらを「1対N型」または「N対N型」と呼びます。)が発明される前は、通信は電話のように基本的には「1対1」で情報を交換するタイプのものでした。電気通信が発明される以前では、人が紙に書いて運ぶか、走って口頭で伝えに行く、ということしかできなかったでしょう。このような1対1型通信しかなかった時代の意思決定は、どうしてもどこか1カ所に情報を集約し、そこで情報を整理した上で、最適な策を選択するという方法を取らざる得ません。

そして、その情報集約拠点は、更に上位の情報集約拠点に対して情報を報告し、上位の拠点は更に全体的かつ長期的な戦略に関する意思決定をしていく、これがピラミッド型組織の基本です。ピラミッド型組織は、ベンチャー企業のように比較的組織が小さい場合には、ピラミッドの階層が少なく、組織の風通しが阻害されませんので、組織の調整機能が有効に働き、組織力を発揮することができます。

しかしながら、組織が大きくなってくるとピラミッド型組織には数多くの問題点がみられるようになります。これはロバート・キング・マートン(1910-2003)らによって明らかにされた「官僚制の逆機能」といわれるものです。

  • 規則万能(例:規則に無いから出来ないという杓子定規な対応)
  • 責任回避・自己保身(事なかれ主義)
  • 秘密主義
  • 前例主義による保守的傾向
  • 画一的傾向
  • 権威主義的傾向(例:役所窓口などでの冷淡で横柄な対応)
  • 繁文縟礼(はんぶんじょくれい)(例:膨大な処理済文書の保管を専門とする部署が存在すること)
  • セクショナリズム(例:縦割り行政、専門外・管轄外の業務を避けようとするなどの閉鎖的傾向)

これらは、一般に官僚主義と呼ばれているもので、先例がないからやらない、規則に示されていないからやらない、上司の了解がないといってやらない、自分たちの業務・専門以外やらない、など日本の役所や大企業によく見られる傾向ですが、私はこれらに加えて、意思決定に非常に長時間を要する点と、情報が上層部に正確に伝わらない点も大きな問題点として指摘したいと思います。

情報が下から上へと各情報集約拠点を経由して徐々に上がっていく、そして、その過程である程度情報が加工変形されるので、上層部にはなかなか正確な情報が上がらないと同時に情報の伝達に時間がかかる、これは災害発生時などの緊急事態の場合には致命的な問題点です。

2 情報革命が組織を変える~崩れゆくピラミッド組織

2002年5月12日に放送されたNHKスペシャル「変革の世紀 第2回 情報革命が組織を変える~崩れゆくピラミッド組織」は、このようなピラミッド型組織が、徐々に変わりつつあるということを伝えた非常に興味深い番組でした。ピラミッド型組織の原点とも言えるのが軍隊ですが、その軍隊でさえもピラミッド型組織を見直しているというのです。

番組は、米国軍隊での中央集権による指示命令系統が見直されたきっかけは、ソマリアでの作戦の失敗だとして、当時の状況を詳細に説明しています。多数の犠牲者が出た地上の車両の状況を、空中の戦闘ヘリは把握しており、悲劇を回避するための情報は握っていました。しかし、命令系統は、司令部から戦闘ヘリという流れで、そのルートで指示がなされたときには、既に悲劇ははじまっていたというのです。軍隊の構成員が命令系統を変えたり、臨機応変に行動することは許されません。この悲劇に学んだ米国陸軍は、兵士一人一人が、責任をもち行動するという方式に改めることになりました。

そのための鍵は情報です。これまでのピラミッド型組織では情報を司令部に集めてそこが命令を出すという流れでしたが、それでは遅いということですので、兵士自らが司令部からの命令を待たずに意思決定をしなければなりません。そのためには、敵の位置や勢力、味方の位置や勢力など意思決定に必要な情報が必要ですが、インターネットを活用した情報技術がそれを可能にしました。兵士が着用しているヘルメットには小さな液晶画面がついており、恐らく、この画面上に航空機や他の味方勢力から集められたあらゆる情報が表示されるのでしょう(このように一枚の地図上に現状を表示させ、関係者で情報を共有するための仕組みをCOP(Common Operational Picture)といいいます。)。兵士はこの画面を見て司令部からの命令を待たずに必要とあれば敵を攻撃する。これが未来の兵士の姿だというのです。米軍ではこのようにインターネット技術の活用やCOPの構築による組織のフラット化が進められています。

番組は、この他、自動車メーカのフォードなどを事例に出して、ピラミッド型組織の対局とも言うべき、「逆ピラミッド型組織」についても紹介しています。これは「上司は部下より偉い」という考え方ではなく、「上司は部下が仕事をしやすいようにサポートする存在」という考え方に立ち、顧客(顧客第一主義の下では最も偉いのは顧客です)に直接接触する営業現場最前線こそが偉いという考え方です。このような組織では、部下の尻を叩いて働かせるということではなく、上司の決断の遅さや、組織内の問題などの要因で部下の仕事を止めないようにすることを重視します。そういう意味で、「上司は部下の仕事を支える存在」「上司は部下への奉仕者」ということになります。なお、逆ピラミッド型組織でも、当然ながら意思決定の鍵となるのは情報ですので、現場最前線の営業マンが必要とする情報は社内情報システムなどによって共有されています。

逆ピラミッド型組織のメリットは、何と言っても意思決定の早さです。現場が上層部にお伺いを立てることなく意思決定できるわけですから、情報が変形することもなく、素早い意思決定が可能です。反面、各現場がそれぞれ勝手に行動するため、同じ事を重複して行ったり、その結果、不必要な対立が発生したりする点がデメリットです。つまり、組織内における調整が不足しがちになります。

3 ベストな組織とは?

経営学者のチェスター・バーナード(1886-1961)は、組織の成立要件として次の3つを挙げています。

  1. 伝達(Communication)
  2. 貢献意欲(Willingness to serve)
  3. 共通目的(Common purpose)

これら3つを私なりに解釈し、組織形態を検討する場合の要素として言い換えると(1)の伝達は「意思決定の早さ・正確さ」、(2)の貢献意欲は「職員の自主性」、(3)の共通目的は「組織内の調整機能」ということができると思います。そして、これら3要素でピラミッド型、逆ピラミッド型を比較すると次のようになります。

ピラミッド型組織 逆ピラミッド型組織
(1)意思決定の早さ・正確さ
(2)職員の自主性
(3)組織内の調整機能

なお、実際には純粋なピラミッド型組織、逆ピラミッド型組織というものは存在しません。あらゆる組織はピラミッド型を基本とした上で、程度の大小はあるにせよ下部組織に意思決定権限の移譲などしていますので、ピラミッド型と逆ピラミッド型を何らかの形で混在させているのが現実です。 組織論の世界では、事業部制、ネットワーク型、マトリックス型、スタッフ制、プロジェクト型など、実に多くの形態の組織がありますが、結局のところ、この2つを様々な形でミックスしたものということができるでしょう。

それでは、災害等の非常事態に最も適した組織形態とはどのようなものでしょうか。私は、国という大きな組織の視点で見た場合には意思決定の遅延や情報混乱を避けるため現場に意思決定権限を委譲した逆ピラミッド型として地方自治体や国はあくまでも現場のサポートに徹するものとし、反対に災害・事故等の現場レベルでは現場指揮官をトップとする強力なピラミッド型として合理的な役割分担を即座に決定・実施に移すことが望ましいためと思っています。なお、現場に構築されるピラミッド型組織は、大きすぎても小さすぎても問題が発生します。大きすぎれば、官僚制の逆機能が働き、機能しなくなります。逆に小さすぎれば、現場職員の負担が増大し、やはり機能しなくなります。このちょうどよい組織を構築するということが非常に難しいわけですが、それを可能にしているのが、現場指揮システム(ICS: Incident Command System)というものです。

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